腹黒王子の初恋
「ーーーまでお願いします。」

 泰晴がタクシーのおじさんに私の家の行き先を告げる。横には泰晴。

「あれ?泰晴も帰るの?」
「こんな優芽を一人で帰せねぇだろ。家まで送ってくよ。」
「ほんとー?ありがとーへへ」

 気づいたら手はつないだまま。

「ねー、泰晴。」
「ん?」

 つながれた手を持ち上げ泰晴に見せた。ずっと繋いでるけど…

「ああ、酔ってて心配だから」
「さすが泰晴、しっかりしてる。ありがとう。へへっ」

 泰晴の優しさがうれしくて満面の笑顔でお礼を言った。そしたら大きな溜息が聞こえた。

「はー。優芽のあほ。俺や莉子以外と酒飲むなよ。」
「何言ってるの。そんな人いないの知ってるくせに。」

 にひひと笑う。また泰晴の溜息が聞こえる。

「俺の理性に感謝しろよ。」
「……」
「おい、寝てんのかよ。この鈍感優芽!」

 はっ!しまった。ちょっと意識が。外を見ると手をつないだカップルが見える。今何時くらいだろ。まだ8時くらいかな。金曜夜に私に付き合って家まで送ってくれる男友達。貴重だなあ。

「泰晴、ありがとね。金曜に会う人が私なんて寂しすぎるね~」
「うっさいわ。優芽もだろうが。」
「私はいいの。彼氏なんていらないから。泰晴がいればいい。何で彼女いないんだろ。」
「……」
「いつかは泰晴にも彼女ができるんだよね。寂しいけど。すっごくさみしいけど。」
「彼女なんかいらないよ。今は優芽の世話で手一杯だからな。」

 泰晴が手をぎゅっと強く握った。握られた手が心地いい。本当に泰晴はいいやつだ。この気持ちをどう表現すればいいかな。大切?大好き?うーん、難しい。
彼女ができたら今のようには一緒にいられないよね。

「まだ彼女作っちゃだめだよ。」
「ばか優芽。寝とけ。」

 泰晴が寄りかかるように私の頭を引き寄せた。泰晴の体温が心地よくてまたウトウトし始める。あー、眠い。

「着いたらおこしてやるから。」
「うーん。ありがと。」
「…少しは男として意識してくれよ…はー、ホントに俺ヘタレだよな…」

 おでこに柔らかい感触がしたような気がしたけど意識がなくなっていった。泰晴が切なそうに見つめるのに気づかなかった。
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