晴れた日に降る雨のように
「秋穂おいで」

優しく呼ばれた、その言葉にも私は素直に耳を傾けられない。

泣きながら祐樹を見上げた私を、祐樹は何も言わず引き寄せた。

私達が持っていた傘が下へと音を立てて転がる。

そんな事を気にすることなく、祐樹は力強く私を抱きしめる。

その行為に涙が止まらない。

「ゆう……」

「好きだよ。今も昔も変わらず秋穂が好きだ。意地っ張りなところも全部。甘やかしてやれなくてごめん」

言いかけた私の言葉より先に言われた言葉に、私は驚いて涙も止まった。

めったに言ってくれない、嫌初めてかもしれない祐樹の言葉。

往来でこんなことをしている私たちを、周りの人々がチラチラと見ていたことに気づいて赤面する。

「ダメだ」

祐樹は離れようとする私を片手で囲うと、落ちた私の赤と緑の傘を広げた。

「隠れても目立つだろうな……」

そんな事を独り言のように呟きながら祐樹は傘で2人を隠すと、そっとキスをくれた。

いつのまにか晴れ間が広がる空から、優しい雨が落ちる。

晴れた日に降る雨の中隠れてキスをしよう。鮮やかに色ずく世界で。

fin.
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