琥珀の中の一等星
 それはたまにリゲルがぼやいていることも手伝っていた。すなわち、「背が低くて童顔だし、子どもっぽく見られる」という点。
 女性にしては長身であるライラは、リゲルとそう身長が変わらなかった。多分十センチ程度の差しかない。おまけに成人しているリゲルと違って、ライラ自身はまだ成長期を脱していない。もしかするとまだ伸びるかもしれないのだ。
 リゲルとしては、そこは気になるのではないか。女の子は、少なくとも恋人にする女の子は自分より小さくてかわいいほうがいい、なんて。そう勘ぐってしまうのだ。
 贅沢だと思う。自分にもたくさんある、良いところ。そこを生かせばいいのだとはわかっている。
 今日買ってもらったオレンジ色のドレス。自分の体形だからこそ綺麗に着こなせて、それが自分らしくてきっと美しく見せてくれるのだとわかっている。誰にでも似合うわけではないのだ。それでも。
 今日のドレス姿を披露する機会があるかはわからないが、リゲルは見れば「綺麗だな」とは言ってくれるだろう。そしてそれは本心だろう。
 でも、それが恋に結び付くかというと大いに疑問なのであった。単に『かわいい妹分』として愛玩するような気持ちかもしれないではないか。彼の好みではないだろうから。
 もう一度小さくため息をついて、ライラは姿見から離れた。デスクへ向かって日記帳を開く。
『今日は母とドレスを見に行きました』
『オレンジ色のドレスを選びました』
『とても綺麗で、私に似合って、大人っぽく見えたと思います』
『良いものが見つかって嬉しいし、着るのが楽しみです』
 日課としている一ページを書き終えた。
 でもその日記には、少しだけ嘘が混じっていた。
 『嬉しい』だけではなかったでしょう?
 嫌なことを連想してしまったでしょう?
 心の中で自分に向かって言ったけれど、でもそれは紙に書かなくていいこと。その気持ちにふたをするように日記帳を閉じて、今夜は早く眠ろうとライラは寝支度を整えることにした。
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