琥珀の中の一等星
 リゲルの好きなことは、仕事のとおり、植物を弄ること。手入れをすること。
 そしてもうひとつ、詩を考えること。
 庭の植物を弄っていると、時々『うた』が思い浮かぶんだ、と言っている。それはもう、幼いときからずっとだ。そんなわけで、ときにはその『うた』、つまり『詩』をぶつぶつとくちずさみ、口頭で推敲しながら植物に触れていくのが、リゲルの仕事であり日常。
 いくらその事情が『養子であるために、中等科への進学が難しかった』というところからきていても、庭師になりたいと決めたのはリゲル本人。もしも普通の家庭に生まれていて、中等科へ進んでいたとしても、その先で庭師を目指したことだろう。
 庭師は別段身分の高い職業ではないし、稼ぎの多い仕事ではない。が、食べるには困らないだけの収入が得られる仕事ではあるし、極端に身分の低い者の職業というわけではない。
 ごく普通の『労働者』。もともとが養子、つまり貰われっこであるリゲルにとってはじゅうぶんすぎる身分であろう。
 自分の身の丈にもあって、将来性もある。そんな的確過ぎる仕事を得られていることが眩しくてならなかった。
 リゲルにとっての『詩』同様、ライラにも好きなことは一応あるのだが。
 それは歌を口ずさむことであった。声を張り上げるのもいいが、風や雲の動きに合わせて自然に流れていくような旋律が好きだ。よく、本で見かけた歌詞などを知らぬうちに頭の中で流している。
 登校中や買い物中など、道をゆく間。
 部屋や家でひとり、家事や片づけものをしている間。
 口に出しても構わないときは、実際に声に出して歌ってみるのだ。
 歌う内容はさまざま。元々『うた』として作られ、世間で流通しているものもある。ほかには本に載っている『文字』でしかないものに、勝手に調子よくメロディをつけてみたり。
 ちょっと恥ずかしいけれど、あとは自分で考えた言葉なんかも歌にしてみることもある。これはあまりひとには聴かせないのだけど。そこは彼と同じ、イメージが勝手に浮かんで口から出てきているものである、といえた。
 リゲルにはその『勝手な歌』を聴いてもらったことは、ある、けれど。それもずいぶん前の、自分が幼い頃のことだ。自分が歌を好きであることはリゲルも良く知っているだろうけれど、こんな勝手な歌を吟じているということまでは覚えているかどうか。
 あとは学校の合唱隊に入って、皆で一緒に歌を歌うのが好きだった。
 コーラスもコーラスで楽しいもの。
 皆と調子を合わせて歌うのも楽しいもの。
 このときばかりは声をあげて歌えて、それもすっきりする。
 でも、こんなふうに『歌が好き』とはいっても。
 これはあくまで趣味じゃないかなぁ、と思うのである。
 リゲルの仕事に対する考え方や取り組み方を見ていたら、自分の『好きなこと』はまだまだぼんやりしすぎだと思う。なので、やっぱりいつでもそんな『自分』がしっかりある彼のことは眩しく見えてしまうのだ。
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