琥珀の中の一等星
リゲルの日記帳
「んー……やっぱり買い足したほうがいいかなぁ」
 ライラがごそごそとあちこち掻きまわしているのは、自室の地下室。そこには普段使わない、特別なときに使うものや、昔使っていたものが保管してある。
 あと一ヵ月ほどでクリスマスがくる。その飾りつけのチェックを母に頼まれたのだ。
 あちこち箱やら引き出しやらを開けながら、ひとりごちる。昔から使っている、クリスマス飾り。確かにモノはあるのだけど、だいぶ古くなっているものもいくつかある。ライラが物心つく頃から使っているものもあるくらいだ。
 ジンジャーマンのマスコット。
 これはまだ使えそう。小さい頃に買ってもらって愛着もあるし。
 鈴やボール。
 これもまだ使えるでしょう。でも金属だからちょっとさびてるのもあるわ。それだけ買い替えようかな。
 雪を模した綿。
 これは……ちょっと汚れてきてるし、まるっと新しい綿に替えましょう。
 カラフルなりぼん。
 これは一昨年くらいに全部買い替えたんだったわ。
 考えながら、ひとつずつチェックしていく。
 そして最後にライラが手にしたのは、てっぺんにつける、大きな星。
 それは金色。クリスマスツリーのてっぺんで輝くもの。
 作りものではあるけれど輝かしいその星を見て、リゲルのことを思い出してしまった。思い出すだけで胸があたたかくなるし、そういう存在になれたことが嬉しいと思う。
 リゲルとは恋人同士になってから、二度ほどデートに行った。今度こそ、立派な『デート』。
 一度は前回のように街中へ行ったけれど、二度目は少し遠出をした。リゲルの手入れをした、隣街の公園の植木なんかを見せてもらったのだ。そこの公園は子どもが遊ぶところというよりは、歩いて景色を楽しむようなところで、だからこそ庭師に依頼がきたのだろう。
 公園の植物たちは、よく手入れをされているのがひとめでわかった。樹は見目好く剪定されていたし、芝生もちょうどいい高さで生えている。そしてピンクの薔薇が綺麗に咲いていた。
「綺麗だろう。結構苦労したんだぜ」
 薔薇は育てるのが難しいと、リゲルがまだ見習いの頃に聞いたことがある。誇らしげに言ったリゲル。目の前のこのうつくしい薔薇はつまり、リゲルの成長を表しているのだから。
「今度は公園や庭じゃなくて、野に行ってもいいかもしれないな。自然のままだって綺麗だから」
 樹々の間を歩きながら、そんな話をした。
「うん、そうだな。手入れをされていない植物は、違う魅力があるから。好きなように成長して、生き生きしてる」
 植物の話をしているときのリゲルは、声が弾む。それこそ自分で言った野の植物のように、生き生きとした声。
「私、リゲルがお花や樹の話をしてるの好きだなぁ」
 その言葉は自然に出てきていた。
「なにを藪から棒に」
 リゲルは、きょとんとした。確かに唐突だったろう。植物の話はしていたけれど。
「だって、リゲルのいちばん得意で好きなことでしょう。仕事としても、趣味としても大切にしているのが伝わるから」
 ライラの言葉に、リゲルはちょっと頬を赤くした。
「なんか、語っちまったな」
 照れたときにするように、髪をくしゃっとする。
「どうして? もっと聞かせて。私、聞いてるのが好きだから」
 ちょっとためらったけれど、ライラは手を伸ばした。そっとリゲルの腕に触れる。厚手になってきた服の上からでも、しっかりと筋肉がついているのが伝わってきた。
 自分から触れることにどきどきとはしたけれど、もう幾度か抱きしめられて、キスもしている。触れることだって、前よりは、……前よりは、だけど。緊張も薄らいだ。
「そ、そうか?」
 もう一度髪をくしゃくしゃとして、でもリゲルは微笑んだ。話すのも好きなのだ。おしゃべりなライラに負けないくらいに。
「じゃ、そこの赤い薔薇がつぼみだった頃の話でもしていいか」
「うん」
「あれな、あそこに植えるのな、ほんとうは白い薔薇にする予定だったんだ……」
 その話を聞きながら、自然に笑みが浮かんできてしまう。そして自分のことも考えて、やっぱりリゲルを眩しく感じるのだった。
 ずっと思っていたことだ。
 いつか、いつか大人になるときはリゲルのように、『これ』という芯を持っていたい。それがなにになるかはまだわからないけれど……。
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