琥珀の中の一等星
リゲルの詩
 ノートがもうひとつなにかをもたらしてくれたのは、たった二週間ほどあとのことだった。
 その日、ミアとシャウラと帰路につこうと学校を出ると、門のところに誰かがいた。誰かなんて考えるまでもなかったけれど。
「リゲル!?」
 ライラの顔は、ぱっと輝いただろう。今度は隠れたり臆したりすることなく、たたっと駆け寄った。
「おう、悪いな。押しかけてきちまって」
 ライラを見て、リゲルも顔をほころばせる。抱きつきたくなるのをやっと堪えた。こんな、学校の前で。
「ううん。なに? 急用?」
「それほどじゃないが。近くを通ったもんだからな」
 リゲルは仕事帰りのようだ。今日はそれほど土などはくっついていないが、仕事用のラフな服を着て、仕事に持っていくカバンを肩から掛けている。
 やりとりをしている間に、うしろから友達二人もやってきた。リゲルがライラのうしろを、ひょいっと見る。
「こんにちは、リゲルさん」
「こんにちは」
 ミアとシャウラも口々に挨拶する。
「ああ、お久しぶり。ミアちゃんとシャウラちゃん、だよな」
 顔は知っていても、そう親しいわけではないのでリゲルはいつも二人のことを『ちゃん』付けで呼ぶ。リゲルが自分と同じ年頃の子をそんなふうに呼ぶのを見られることは、あまりない。なんだかおかしくなって、くくっとライラは笑ってしまった。不満を覚えただろうリゲルに軽くではあるが睨まれる。
「ライラのこと、大事にしてくれてますか?」
「えっ、あ、ああ……勿論」
 ミアがそんなことを言い、リゲルは目を丸くして、すぐにちょっと頬を染めた。がしがしと頭を掻く。
「ちょっと、ミア!」
「いいじゃない。気になるもの」
 ライラまで恥ずかしくなって声を上げてしまったけれど、ミアは、しれっとそう言った。
 シャウラは別のことを言う。
「そんなの聞かなくてもわかるじゃない。ライラ、いつも楽しそうだもの」
 今度は恥ずかしげではあったが、リゲルははっきり嬉しそうな顔をした。
 リゲルには見られない、学校での様子。聞けたことが嬉しかったのだろう。
「そうなのか」
「もう! みんなしてからかわないでっ」
 ははは、だの、ふふふ、だの、それぞれの笑い声があがった。
 ライラはますます恥ずかしくなってしまって声を上げた。ここにいたら、交際について根掘り葉掘り聞かれるのはわかりきっている。主に、興味津々なミアによって。
 なのでリゲルのほうを見て促した。
「用があるんでしょう? 行こ? ミア、シャウラ、ごめん。リゲルがきっと用事」
 言いかけたところでミアが軽く手を振った。
「わかってるわかってるって。そんな無粋なこと。いってらっしゃい」
「ええ。また明日ね」
 シャウラも言ってくれて、やっぱりちょっと恥ずかしくなりながら、ライラは予定とは別になったが、リゲルと共に学校からの帰路についた。
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