花のようなる愛しいあなた
ちょうど同じ頃、近くにある台所ではヨシさんの怒鳴り声が響き渡った。
「くぉらぁあああああ!!!!
誰だい、あんたは!!!!」
ガシャーン!!!
ガラガラガラ…!!!
「きゃぁぁぁぁっ…!!!」
ヨシさんの怒鳴り声の後には食器などが割れる音や若い女性と思われる悲鳴などが聞こえた。
千姫やおばば様は佐奈さんに一生懸命だ。
松とお雪は分娩室を離れて台所へ走った。

台所では佐奈の妹の加奈がヨシさんに羽交い絞めにされていた。
床にはこぼれたニラ粥と割れた食器の破片が散らばっていた。
「どうしました、ヨシさん!?」
「この子供が勝手に台所を使っていたから捕まえたのさ」
「みんなが忙しそうにしてたから、お姉ちゃんにおかゆ作ってあげようと思って…」
加奈はじたばたしながら泣き喚いた。
「こんな子供使って…ったく。
誰に頼まれて誰を殺そうとしたんだ?
いい加減吐きな、子供だからって容赦しないよ?」
ヨシさんは加奈の首を締めあげ始めた。
「ヨシさん、ちょっと待って!
この子は側室の妹で付き人としてあそこの部屋に住んでる子だよ!」
松は必死にヨシさんを止める。
「じゃぁその側室に千姫様に毒を盛れって指示されたってことか!!」
「そんなことしないもん、クソババァ…っ!!」
「何をっ!!?」
「お姉ちゃんに謝れ…!!クソババァ!!」
ヒートアップするヨシさんをお雪も制する。
「ヨシさん、その姉妹は敵意がない者たちだと思います。
恐らくニラと水仙を間違えて使用したのでしょう。

最近、あそこにある畑から野菜を勝手に持って行ってるのは、あなただね?」
「……」
加奈は怯えながら頷いた。
「なるほど、ただの考えなしの馬鹿者だったってことかい」
ヨシさんは加奈を解放した。

へなへなと座り込んだ加奈に松は話しかける。
「あのね、台所は許可なく立ち入っちゃいけない場所なの。
わかる?
一番毒を盛りやすい場所だから」
「そ、そんなことしない…ただ…お姉ちゃんに…」
「だから許可を得てない人が作ったものは全て廃棄しなくちゃいけないの」
「だからって…ひどい…」
「あなたがニラだと思って鍋に入れていたのは姫様が育てている水仙の葉なの」
「え…」
「猛毒よ」
「!」
「食べた人が死んでしまうくらい」
「私…そ、そんな…知らなくて…
ごめんなさい…ごめんなさい……」
加奈はその後ずっと泣き続けた。

「不法侵入に窃盗に殺人未遂だからね!
知らなかったじゃ済まされないんだよ!!
しかもこのバタバタしてる大変な時に!!!」

佐奈さんは数か月して体調が戻れば産まれた姫と共に「安全な場所」へと隠されることが決まっている。
しかし、加奈は一緒には連れて行ってもらえない。
佐奈の養父の元で下働きをするか大坂城に残り下働きをするかはまだ決まっていなかった。
焦った加奈は何かやれることをと思ったらしい。

「お姉ちゃんにもめいわくかけちゃった…。
私、このまま死刑なのかな…」
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