花のようなる愛しいあなた
一方その頃---。

「秀忠、てめぇ、待ちやがれ!
ぶっ殺す!!!!!」
江戸城では、江が薙刀を持って秀忠を追い回していた。
「いや…、ちょっ、ちょっと落ち着け、江ちゃん」
「うるせぇ!!!」
「いや、ほんと、危ないから…っ!!」
江の薙刀が空を斬る。
「こっちは命懸けでてめぇの子供産んで育てて尽くしてるっつーのによ!!!」
「ですよねっ、感謝してます!
愛してます!好きです!!」
「てめぇって奴はよ!!!」
「申し訳ございません!!!
つい、出来心で……」
「出来心だーあ?
お前、一回目の浮気の時"二度としない"って言ったよなぁ?」
「……はい…」
「約束破ったからには、死んで詫びてもらう!!!」
「だ、だから危ないよっ、すみませんでしたっ」
「そして私も死ぬ!!!!」

江戸では、秀忠の浮気が発覚し江が怒り狂っていた。
将軍ともなれば側室の一人や二人いても何もおかしくないのだが、それは正室との間に子供が授からない場合に用いられた事が多かった。
側室は基本的に正室の許可があって初めて認められるという仕組みになっているのだが、
江の場合は後継になりうる男児を2人そして姫を5人も産んでいるのでよっぽどの事情でない限り側室は不要と言える。
そして江は浅井と織田という貴重な血筋であり、豊臣家で高貴な教育を受けて来た唯一無二の美姫であるという自負がある。
その辺の女なんかと一緒にされてたまるものか!
バカにしやがって!!!

今回非常にまずかったのはただの浮気ではなかったということだ。
もうすぐ子供が生まれるのだ…!!!
「あの…子供を認知して養子に迎えてもいいなんてことは……」
「その子供もてめぇと一緒に打ち首にしてやる…!!」
「いえ、あの、冗談です…あの、冗談と申しますか……」

江はますます手に負えない程に暴れまわり、どうすることもできない侍女たちは遠巻きに傍観していた。
半刻程暴れていただろうか…
その内、江が疲れて薙刀を投げ捨てたところ秀忠が素早く土下座をして謝る。
「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁあ!!!!!」
その隙に侍女の1人が薙刀を回収する。


この情けないコントのような土下座劇は、すぐに家康の元に伝わった。
情けなさ過ぎて目付役の本多正信は隠しておこうとしたがそのことも含め家康の逆鱗に触れた。

…あいつはダメじゃ!!!
こんな大事な時に何やっとるんじゃ!!!
自分の妻子くらいきちんとせいっ…!!!
情けない…!!!
こんなんじゃ本当に人心は豊臣家に奪われてしまうぞ…
わしだっていつ死ぬかもわからんというのに…。

ちなみに、秀忠の浮気相手である乳母筋の侍女・(しずか)さんは5月に甲斐の国で出産する。
その息子は保科家に養子に出されることになった。
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