花のようなる愛しいあなた
「…すみませんでした」
しばしの沈黙があった後、淀殿はしゅんとしながら謝った。
「ようやく謝れるようにはなったか…」
淀殿は寧々さんに縋るような表情で尋ねる。
「寧々さま、大坂城には戻ってきてくれないんですか?」
「戻りませんよ」
「何でですか!?
私たちを助けてくださいよ!」
「もう私は世を捨てた尼になったんですよ。
俗世のこととは距離を置いてゆっくり余生を過ごしたいのです。
頼りにされても困ります」
「寧々さまが戻ってくれるって言ったら、徳川家にお祝いに行くのも考えます。
でも、戻って来てくれないなら絶対嫌です!」
「…この話は平行線ですね。
これ以上話しても時間の無駄ですね」
「何で!?何で助けてくれないの!?
徳川が天下を手中に収めようとしてるんですよ?
何でわかんないんですか!!?」
「わかってて言ってるんです!!
どう考えたって徳川家の方に分があるでしょう!
少しは空気読みなさい!!」
「…何よ、それ…?
家来のふりしてへらへら振る舞ってたくせに…豊臣に黙って朝廷の力使って偉くなっちゃって…いつのまにかあっちの方が上みたいなこんな卑怯なやり口、黙って従えって言うの!!?
こんな屈辱、受け入れられる訳ないじゃない!!!」
「…そのやり口を丁寧に見本として見せたのが秀吉よね」
「……」
「ヘラヘラしながら織田から天下を奪ってモノにした」
「……」
「家康殿は同じことをしたまでです。
仕方ないことじゃないかしら?」
「何よそれ!?
何で寧々さまがそんな風に言うのよ!?」
「豊臣家は分不相応に大きくなりすぎました。
もうここいらが潮時じゃないかしら」
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