花のようなる愛しいあなた
千姫はその後早起きを心掛け、身支度もきちんと済ませ勉学に励むようになった。
かつて秀頼と重成が耕した畑の世話も再開させた。
多喜が言うようにその場所だけは雑草だらけで、他の手入れされた畑と比べると長いこと放置されていたのは一目瞭然だった。

「田畑の管理はわしら小作人の仕事だ…
姫様が関心持って手伝ってくだすっただけでも感謝だ…
ご指示をいただければいつでもきちんといたしますので」
小作人たちは千姫の登場に本当に嬉しそうだった。

この場所だけは他の人に触ってほしくないという自分のわがままなのに千姫は自分の今までのことを恥ずかしく思った。
「実はね、この場所に花を植えたいと思ってるの。
秀頼くんも淀母様も元気がないから、お部屋に飾れるような花を育てたいの。
どうかな?」
「良い考えだと思います!」
「私が来れない日は皆さんにお願いしても良いでしょうか?」
「お任せください!」

千姫が花壇づくりに精を出しているころ、
淀殿は連日仲の良い客人を招いて花見会やら歌会やら様々なイベントを開催していた。
淀殿主催で、「大人の会合」だったため千姫は出席することはできなかったが、秀頼はホストとして淀殿と一緒に客人をもてなしていた。
連日三条家や西園寺家、徳大寺家、日野家などの公家たちが大坂城を訪れる。
秀頼を一目見ようと姫君たちも一緒に訪れていた。

ある日、千姫が畑作業を終え自室に戻り着替えようとしていた時だった。
ちょうど渡り廊下を着飾った姫君たちが歩いていた。
まるで花が咲いたかのような華やかさと艶やかさがあった。
姫君の一人と目が合う。
その姫君は汚いものを見るような表情で千姫を睨んだ。
泥で汚れていた千姫は端に寄りその姫君たちが通り過ぎるまでじっと待っていた。
「何、あれ?」
「汚ったねー」
「使用人の子がこんな所歩いてんじゃないわよね」
姫君たちは聞こえるように言いながら去って行った。

「……」
「あの人たち誰なんですかね、感じ悪い」
松は姫君たちを睨みながら呟いた。
やがて姫君たちは離れにある東屋に歩いていき、それを淀殿と秀頼が丁重にお迎えをしていた。
一瞬、千姫は秀頼と目が合った気がした。
「!!」
千姫は恥ずかしくなって気づいたときには走って物陰に隠れてしまった。
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