※彼の愛情表現は、少しだけ重すぎる。


すると、まったく同じタイミングで、同じように目を見開く大村さんと伊原さん。


やがて、緊張の糸が切れたように、大村さんがへらっと表情を崩した。


「びっくりした。花宮さんって怖い人なのかと思ってたのに、こんなに気さくだったなんて」

「え、ほんと?」

「ね、もし花宮さんがよかったら、お弁当一緒に食べない?」

「花宮さんともっと仲良くなりたいな」

「こちらこそ……!」


思いがけない誘いにそう答える私は、学校という空間の中で、多分何年かぶりに心から笑っていた。




小さな幸せをひとつひとつ見逃さずに抱きしめることができる人になりたい。

差し出された震える手を、握って引き寄せることのできる強い人になりたい。


この世から差別がなくなることはきっとないけれど、大多数に流されて自分の思いを手放さないように、自分の目で大切なものを見極められるように。





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