死にたがりのブルース

急いで階段を駆け下りると、女性の啜り泣く声が段々と近づいて来た。


縮こまった背中を見つけ、ありったけの声で名を呼ぶ。



「優子！」


「わっ、智くん、」


嗚咽を漏らす彼女の腕を後ろから掴み、息を切らしながら謝罪の言葉を伝える。



「ごめっ、本当にごめん。俺のために、はぁ、してくれたのに、酷いこと言って……」


ヤベェ、こんなに体力無かったっけか自分。



肩で息をする俺を見て、優子は小さく笑った。



「良いよ。私も言い過ぎたから。ごめんね。でも、ちょっと嬉しいな。そんなに必死になって私の後を追いかけてきてくれる智くんの姿を、見れるなんて」


「ああ。俺はもう、決めたんだ。何からも逃げないって。目を逸らさないってな。だから、優子のことも……その、真剣に考えてるから」



グッと身体を抱き寄せ、誓う。


最愛なる君に。



「大好きだ。優子」


「と、智くんってこんな情熱的な人だったっけ？」


1回死んで、世界の見え方が変わったんだ。


なんて言える筈もなく、曖昧に言葉を濁す。



「あー、まぁ、NEW 佐原 智一と思ってもらえたら」


優子の笑顔が、胸で咲いた。


「あはは、それ良いね。ニュー智くん。素敵だよ」




そのあと、ふたりで一緒に冷蔵庫の中に入っていたご馳走をたいらげた。




美味い美味いと連呼しながら完食する俺を見て、優子は「大げさだよ」なんて、絆創膏だらけの手で口元を隠して笑っていた。