恋のルーレット
一つになりたい
日曜日、エイジと一緒に水族館へ来た。

ここへ来るまでエイジは魚なんて見て何が面白いのとか、スーパーで魚見てればいいじゃんとか言っていたくせに、すげーすげー言って私よりも楽しんでいる。

「見ろよ、ニモじゃん」

「ああ、カクレクマノミね」

「マリィって詳しいね、魚のこと」

「これくらいは有名だよ」

「へぇ」

またカクレクマノミの水槽に食い付いて見入っているエイジ。


「もしかしてエイジってさ」

「んー?」

「水族館初めて?」

「うん。来たことなかった」

そうなんだ。私は小さい頃によく家族で来たけど、そういうことなかったのかな。

でもエイジは、今までもたくさん彼女がいたはずなのに何処でデートしてたんだろう。

じーっとエイジの横顔に視線を送っているとエイジが振り向いた。

「何?」

「エイジって今までの彼女とデートで何処行ってたの?」

「なんで?」

「気になるから」

「どうでもいいじゃん」

「言って」

んーと考えて言いたくない感じだったけど。

「ホテルばっかだった」

白状した。


はい?耳を疑った。

今なんと?

「ホテルって何?」

私は眉間に皺を寄せてエイジに聞いた。
今まで元カノの話を一切言わなかったのは、こういう事ばかりしてたから言えなかったのか。

分かってたけど、実際に本人から言葉として聞くとショック。


「終わった事だよ、終わった事」

そう言ってエイジは次の水槽のクラゲの方へ歩いて行った。

確かに過去だし、今は私と付き合ってるし、気にする事ないんだけど。

でも。

やっぱり気になってエイジを追いかけて、袖を引っ張った。

「詳しく教えて」

「やだ。それより魚見ようよ」

「ダメ、言って。気になって魚どころじゃなくなった」

「マリィが見たいって言ったのに」

「やーだーやーだ!言って!過去の女の話全部言って!」

私があんまりにもしつこいから、エイジも観念したらしく、あんまり覚えてないけど……と前置きしつつも、過去に付き合って来た女の話を洗いざらい話した。



結論、聞かなきゃ良かったと思った。

予想以上にチャラかった。

同級生だけじゃなく、同級生の親まで手を出していたし、先生とも関係を持っていた。

私の表情は水族館に入って来た時と比べものにならないくらい、どんよりと雲っていた。




「だから言わなかったのに」

帰りに寄った公園のベンチで、暗い顔して俯いている私にエイジが言った。

「サイテー」

「最低だよ俺は」

「絶倫、変態!」

「はい。そうです。いや、でした。でも、マリィと付き合ってからは何もしてない」

「ほんと?」

私は顔を上げて彼の目を見た。
嘘を言ってないか確かめたかったから。

「興味なくなった。他の女に」

本当の事を言ってる目だった。

だけど、不安なこの気持ちは何だろう。

「私の事好き?」

「好きだよ」

足りない。

どんどん好きが積もって、どんどん私の気持ちが重くなる。

束縛されて嫌だったのに、私がエイジを束縛してしまいたくなっている。

もう誰にも触れないで。

私にだけ触れて。

こういう気持ちは始めてだ。どう処理していいか分からない。

「……エイジ」

「ん?」

「今から部屋行ってもいい?」

自分でも何言ってるんだと思う。

「いいけど、それなりの覚悟はある?」

覚悟なんかない。ただエイジの過去の女に嫉妬してたんだ。

だから

「あるよ」

手が小刻みに震えていた。

こうでもしなきゃ過去の女に勝てない。そう思ったから。




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