不死身の俺を殺してくれ
 一時《いっとき》の情に流され、後々(のちのち)後悔をする羽目になるくらいならと思い、煉は敢えてさくらに警告をしたものの、その言葉は受け入れなかった。

 そもそも、俺は本来なら不審者扱いをされ警察に通報されてもおかしくない人間だ。自分が"生"という理から外れ、生きている以上その自覚はしている。
 
 だが、さくらは煉を警察に突き出す訳でも、ましてや、一夜限りの身体の関係を求めている訳でもない。

 そして、何より煉にとって驚きだったのは、この傷だらけの身体を見ても、さくらは気味悪がるどころか、心配げな表情を浮かべていたことだった。

 過去の褪せた映像が脳裏を駆ける。

『煉って顔はいいけど、やっぱりその身体の傷痕は見るに耐えないわね』

 今まで交わってきた女達に、散々言われてきた言葉だった。

 その度に、本当は自分でも知らない内にその言葉達に傷付いていた。

 だから、不覚にも少しだけ嬉しくなってしまった。この時代にもこんな女がまだ残っていたことに。

「──あのっ!」

「……なんだ」

 さくらの声により、回想から現実へと引き戻された煉は微かに眉根を寄せる。

 まだ、何かあるのか?

 煉が訝しげにしていると、さくらは徐に立ち上がり寝室に向かったかと思うと、柔らかそうな淡い桜色の毛布を手にし戻ってくる。そして、その毛布を煉に突然押し付けた。

「おい」

「服が乾くまでそれで我慢してください! ……色々と目のやり場に困るんです……」

「勝手に洗濯したのはお前だろう。俺のせいにするな」

 追憶していたせいで忘れていた。そういえば、シャワーを浴び終えたら俺の服がなくなっていて、仕方なくこの姿を晒したんだったな。どうりで寒い。

 普通、勝手にしかも交際してもいない男の服を洗濯するほうも、どうかとは思うが。

 まあ、いいか。

「さくら」

「は、はい!」

「これから、しばらく世話になる」

 ふわふわの毛布を片手に煉が挨拶を述べると、さくらは嬉しそうに笑顔を綻ばせる。

「あ、いえ。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

 本当に変な奴だ。だが、これも悪くはないのかもしれない。
 
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