四つ子の計画書




広い施設の中を見渡し、いわゆる迷子になったという事実を隠すために立ち止まった。





部屋を出てきて、廊下を無我夢中に走っていると施設の出入口の前まで来てしまって……。




施設の人がいたから、見つからないようにして慌ててそこから離れていたら……よくわからない場所に来てしまった。






施設の人に聞くとか……怖すぎて出来ないし。





このままここにいても……研究室に来なかったって実莉や海斗くんがどうにかされるかも……。





辺り一面に真っ白な壁や床。






ベージュ色の木箱が積み重なって置かれていたり、所々ガラスの壁があって入れなかったり。







ガラスの壁の向こうに見えた、重そうなドア。






何か……ドアのところに書いてある。







なんて書いてあるんだろう?人の名前…?






視力はいい方だと思うけど、文字が小さくて見えない。






ガラスに頬っぺたを張り付けて、うーん…と目を凝らす。





由………紀………?






文字の最後の方を読むことに成功したその時。





コツ……コツ…





すると突然、背後から足音が聞こえた。







ど、どうしよう。







慌てて近くにあった木箱の裏に隠れる。




身を縮め、しゃがみこむように座ると手を重ねて、見つかりませんようにと神様に祈る。






「なあ、聞いたか?二卵性の双子より一卵性の双子の方が、能力値が高くて解剖とか研究の対象になりやすいらしいぞ」





「聞いた聞いた。一卵性の双子は災難だな、本当に」




男の人二人の声……。






話してる内容なんて、全然頭に入ってこない。






って、そうじゃなくて!!!








足音がだんだん近づいてきてる!









このままじゃ……、見つかっちゃう…





柚希のお父さんに見つかってしまった時の、恐怖が私を襲う。









「……っ…ぅ」








「まあ、一卵性とか関係なく…双子なんて、ただの研究道具だよな」























「ここで何してる」






「ふ、福井様…っ!」





「申し訳ございません…。由紀様の様子を伺いに参りました…」






「それは有り難い。でも、もうその必要は無くなった」






「え…?それは一体どういう……」







「それに、会話の内容が不愉快だ。今すぐに慎め」






「「申し訳ございませんでした…」」







「仕事に戻れ。ここにもう用はないはずだ」






「かしこまりました」





「なにかありましたら、すぐにご報告下さい。」








去っていく二つの足音……そして





「もう大丈夫。おいで」





「ひっ……」





そっと差し出された手のひら。





しゃがみこんで震えていた私と同じ目線でしゃがみこんでいる男の子。






「綺麗……」



「?」





「…あっ!」





男の子は首を小さくかしげて、きょとんとしている。




男の子の顔立ちが綺麗すぎて、思わず心の声が漏れてしまった。





ぱっちりとして、少し青がかった大きな瞳。




小さい鼻、薄い唇。





髪の毛は黒くて…ふわっとしていた。






海斗くんと同じ、上下が白色の服を着ていた。








「さっきは施設の者が悪かったね。嫌な気持ちになったと思う…」






「い、いや!大丈夫です!助けてくれて、ありがとうございました…」






「それはもう大丈夫。立てる?」






「あ、はい…」






私の手を握って、立ち上がらせてくれた。






「君、確か研究室に呼ばれてたよね」








「え……、どうしてそれを…」





「名札に書いてあるNo.が放送で呼ばれてたから」




「あっ…そ、そっか」







「来て、ここは研究室とはかなり離れてるから、場所がわからないなら教えてあげる」






「は、はい!ありがとうございますっ」






私の数歩先を先導して、歩き出した男の子。






年は見た目から判断すると、近いかも…。






落ち着いた雰囲気で、私と同じ双子なんだってわかった。








あれ、でも…。







さっき施設の人と話しているときは、施設の人が彼に敬語を使っていて、彼はタメ口だったような…?







そういえば、男の子の胸ポケットに名札はつけられてなかったかも。






なにか理由があるのかな……。







「ついたよ。ここだ」





分厚い扉の前で立ち止まり、指を指した男の子。







「そんなに不安がらなくても、今日ここに来たんだとしたら…能力の判定研究だ。すぐに終わるし変なことはされないから大丈夫」






「そ、そうなんだ……あっ…ありがとうございました」






「どういたしまして、僕の名前は福井梨乃。またね、真莉」







「へ……あ、ありがとう福井くん!」





福井くんに向かって大きく手を振ると、私をもう一度振り返って手を振り返してくれた。













そして、分厚い扉に向き直る。







深く息を吸うと、覚悟を決めて扉を開けた。








< 14 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop