敏腕社長は哀しき音色に恋をする 【番外編 完】
私は、静かに深呼吸すると、一曲目を弾き始めた。


ーエリック・サティ 〈ジムノペディ 第1番〉ー


譜面上は簡単そうに見えるものの、スローテンポでしっとり聴かせるには音色が命だ。
店内のささやかな騒音を自分の中から消して自分だけの世界に浸るのは、これまでにないほど心地良かった。


弾き終わって意識をバーに戻すと、すっかり静まり返っていた。
と思った次の瞬間、拍手が沸き起こった。


「これはまた素晴らしいピアニストだな」

「なんか、バーの演奏レベルじゃないだろ」


生演奏が売りもあったせいか、バーには音楽に精通した人も多数やって来るという。
客席にはざわざわとささやき声が広がった。



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