real face

Monologue  ※佐伯翔真視点

俺の父親の3回忌法要があった。
一緒には暮らしていなかったが、一応は父親だった人だ。

一昨年の告別式、昨年の一周忌に続いて、3回忌にも出席したが、ハッキリ言って悲しみの感情は一切なかった。
俺にとっての父は、小さい頃から俺を引き取って育ててくれた、父さんだけだ。
吉田真(よしだまこと)……ただ、1人だけ。

佐伯の家には、俺の母と、弟の祥平(しょうへい)がいる。
文房具の卸売業だった会社"佐伯文具"を継いだ弟は経営手腕を発揮していた。
ただの卸業だけでなく、文房具の製造から販売まで手を広げる様になり、父の一周忌の後で社名を変更しイメージアップを図った。

その名は……"S・Factory"
Stationeryの"S"と、佐伯の"S"をかけているんだろう。

実は法要で佐伯家に行く度に、母から言われることがある。
俺は佐伯家の長男、祥平を支えてくれないかと。

……冗談じゃねえよ。
俺を手離しておきながら、今更佐伯家に戻れだと?

祥平とは離れて育ったから兄弟という感覚は持っていない。
だが、お互い1人っ子として淋しい思いをして来たからか、解り合える部分はあると思う。
歳も1つしか違わないし、たまに会う親戚って感じだ。
祥平からも"S・Factory"を手伝ってほしいと言われたが、そんな気にはなれないのが正直なところだ。

あと、厄介なのが、俺と祥平には腹違いの兄がいること。
佐伯の父は、母とは再婚で、前妻との間に息子がいたのだ。
そして前妻は別の男と再婚して、今の名字は『龍崎』になっている。
そう、あの『RYUZAKI工房』の、龍崎だ。

つまり、いま俺が担当している『RYUZAKI工房』の製造部門統括部長である、龍崎貴浩こそが俺の兄になるのだ。
もちろんこの事実は誰にも打ち明けていない。

佐伯家の家庭事情と、育ての親である父さんのことも、親類以外で知っているのは宮本兄弟くらいだ。
貴浩兄さんのことは、出来ることなら誰にも知られたくない。
あの人が俺のことをどう思っているかは知らないが、俺は仕事以外ではなるべく関わりたくないと思っている。

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