real face
イチにぃが緊急ミーティングを開くと言い出し、蘭さんを迎えに行ったマンションが、双子を送って行ったマンションと同じだったのと、イチにぃが電話で『まこと』と言ってたのを聞いて、まさかと思った。

その後、蘭さんのデスクで家族写真を偶然見てしまい、そこに一緒に写っていたのが決定的な証拠となって、確信した。

俺が新と信のことを知ってて、面識があることを告げるべきか?
隠しておくことでもないし、写真を見てしまった以上黙ったままでいるのも不自然だろう。
それなら解った時点ですぐに言うべきだったのかも知れないが、なんせタイミングが悪かった。

蘭さんの独白を、聞いてやることが最優先だったから。

彼女は、いままで誰にも言えなかった辛い胸の内を語ってくれた。
イチにぃや修にも言えなかったという心の闇を。

もうそんな辛い思いを1人で抱え込まなくていい。
俺の前では無理したり強がったりするな。
俺が全部受け止めてやるから、全部俺にぶちまけろ。

……その代わり、俺以外の男には無防備な姿をさらさないでくれ。
イチにぃや修はもちろんだけど、同じ会社の同僚とか。

俺が最も危険な男だと警戒しているのが、龍崎貴浩。
『RYUZAKI工房』とは繋がりがあるし、関わらない訳にはいかないから。
仕事とプライベートを混同するつもりはないが、貴浩兄さんの真意が掴めないから、とりあえず要注意人物としてマークしておく必要がある。

それにしても、蘭さんときたら……。
俺が"Many cakes"よりも美味いケーキと言ったのは、蘭さんが作ってくれたパウンドケーキなのに。

兄さんが余計なこと言ったせいで、元カノからもらったケーキだろうと勝手に勘違いしてるらしい。
無表情を装っていたらしいが、嫉妬の感情を僅かに滲ませていたのを俺は見逃さなかった。
いつの間にか彼女の微妙な表情の変化に気づくようになってしまっている。
俺、完全に持っていかれてるな……。

彼女のジェラシーを解消してやるにはこうするしかないと思い

『また、作ってくれよ』

と、催促してみた。

『その勝負受けて立ちます!』

なんて、まさか自分との勝負だとは夢にも思っていないだろう。
そして、こんな展開は流石の俺も想定外。
蘭さんの家に、招待されてしまったのだった。

ある意味、俺にとっても勝負だな。

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