real face

同期だから

──7月2日。

週末だというのに、今日と明日、私はあるセミナーに参加しなければならなくなった。
教事1課員のスキルアップを図るつもりらしい宮本課長の策略で。

『こういうのは先ず若い奴が先頭切ってチャレンジするもんだ』

なんて、意味不明な理由で私のセミナー参加が"決定事項"だと告げられたのは、約2週間前。
私1人で受けるものだと思っていたら、もう1人シャイニングからの参加者がいるという。

広報部の迫田さんだ。
彼は自ら希望して、セミナー受講を上村課長に承認されたんだそうだ。
参加申し込みギリギリに滑り込んできたと宮本課長が笑ってたけど、逆に佐伯主任は苦々しい顔をしていた。

今回のセミナーを迫田さんと一緒に受けると知った主任から、忠告されたことがある。

①メイクは"バッチリ"完璧にすること。
②笑顔を見せないようにすること。
③決して気を許さないこと。


会場で受付を済ませ席につくと、5分ほどして迫田さんが来た。

「おはよう、蘭さん。俺早く来たつもりだったけど、蘭さんの方が早かったね」

「おはようございます。私もさっき来たばかりです」

同じ会社で一緒に申し込みしてるんだし、当然席は隣り合わせ。
正直言って迫田さんとはあまり深く関わりたくないんだけどな。
遊びに来てる訳じゃないんだし、しっかりとセミナーに集中しよう。

佐伯主任と仕事していく上でキャリアアップは必須条件。
宮本課長の方針をありがたく受け止め、自分自身をもっと向上させなきゃ!

そうやって心の中で静かに闘志を燃やしていた私は、隣に座っている迫田さんの密かな思惑に気付くことはなかった。
全く眼中にない、ただの同期の彼が、私とは全然違う意図を持ってこのセミナーに参加しているということにも。

午前中の講習のテーマは『経営理念を正しく理解する』というもの。
ランチタイムにそれを踏まえた話題で食事をしながら話し始めたのは迫田さんだった。

「蘭さんは覚えてる?うちの会社の経営理念」

「入社時の社員研修で聞きましたよね。"シャイニング"って会社名の由来、ですよね」

Shine……輝き
Shining……輝くこと

シャインを社員とかけて、社員が輝きながら働ける会社。
それが"シャイニング"という会社名の由来らしい。
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