real face
第12話

"M"作戦、完遂

…………怖い!

佐伯主任に早く会いたくて、無我夢中だったから、高所恐怖症なんて忘れてた。
だけど体に染み付いた恐怖は、当然消えるわけもなく私を襲った。
この景色が目に入るから怖いんだ。
それなら目を瞑ればいい。
深呼吸をして、目を閉じてみた。

ほら、もう怖くない……。
またゆっくりと歩き始める。
一歩、また一歩と、確かめるように足を進めていく。

佐伯主任に会いたい、ただそれだけでここまで来た。
だけど長いな……この吊り橋。
子供の頃はただ恐怖だけで、ただ泣きわめいて、イチにぃに抱きついてた。

もうそろそろ終わり……?
恐る恐る、目を開けてみた。
だけど、期待したほど足は進んでいなかったようで、目の前にはまたまだ続く吊り橋……。
もう、ダメ限界……。
立っていられなくなり、その場にズルズルと座り込んでしまった。

「まひろ!」

後ろの方から私を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、ゆらゆらと橋が揺れて誰かが近付いてきた。
そして、その人に私はギューッと抱き締められた。

「まひろ大丈夫か?怖かっただろ、1人で行かせて悪かった。もう大丈夫だぞ、俺がここにいるから……」

イチにぃ……。
私、イチにぃに抱き締められているんだ。
イチにぃの腕の中って、暖かくてこんなに安心できるんだ。
初めてだよこんなの、知らなかった。
恐怖心が薄れていくのが分かる。

「あ、ありがとうイチにぃ。私、もう大丈夫だよ」

「うん、良かった。本当に良かった。だけどもう少しこのままでいさせてくれないか?まひろ……」

「……イチにぃ、どうしたの?」

ちょっとだけ震えているような気がするけど。
もしかして、イチにぃも本当は怖いの?

「まひろ、お前にずっと隠していたことがあるんだ。聞いてくれるか?」

私に隠し事なんて、何だろう。
言葉で返事をする代わりに、イチにぃの腕の中でコクンと頷いてみせた。

「俺はずっと前からまひろのことを見てきた。ずっとそばで守ってやりたかったんだ。小さくて、可愛くて、泣き虫で。そんなお前が本当に好きだったんだ、俺」

< 187 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop