real face
「………まひろ?」

し、しまった!!
俺とまひろの関係はこの会社内では秘密にする約束だったんだ。
ただの上司と部下なのに、名前呼びはマズイよな、うん。

「いや、俺も真似して『まひろん』って言おうとしてつい。蘭さんとは仲が良いんだね」

「中学生の時、仲良くなりました。でもまひろんは家庭の事情とかいろいろあって、高校生になってからは疎遠になってたんです」

ああ、両親の離婚とかね。

「本当は同じ高校に行くはずだったんですけど、急にまひろんは商業高校に進路を変えてしまって。大学にも行かないでシャイニングに入社したんですよね」

「会社で会ってから、どうだった?」

「始めは思いっきり避けられてました。昔は"のほほん癒し系"だったのに、表情が硬くてきっちりメイクで、驚いてしまいました。面影が無くなってしまったようで……」

確かに、昔のアイツとは別人だもんな。

「でも、有田さんは根気強くアイツの閉ざした心を開こうとしてくれたんだよね。有田さんにだけは心を許しているみたいだし」

「1年かかってやっと、普通に話せるようになりました。やっぱり笑っているまひろんが断然いいです」

「俺、直属の上司になって間もないけどさ。蘭さんって、ツンデレ…いや、デレはないか。ツンツンなんだよね。愛想がないっていうか。いくら仕事ができても、もう少し社交性を持ってくれたらいいんだけど。有田さんみたいにさ」

「私は部署が違うから、まひろんの仕事中の様子ってよく分かりません。木原課長とは親しげな感じに思えましたけど…」

「じゃあ、俺は嫌われてるのかもな…。有田さんにいろいろアドバイスしてもらってもいいかな?」

「まひろんのことについて、ですか?」

「新しい部署でも円滑に業務したいからね。彼女は難しいところがあるから……」

まひろをダシにして悪いけど、有田さんと近付くためだ。 しかし有田さんの表情が暗く沈んだような気がする。
何故だ?


< 31 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop