【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


その後は、お見合いの時間まで流されるように、フェイシャルパックや、アロママッサージを施されて、
髪型のセット、着付けへと、旧子爵令嬢と言う名のレプリカ人形は生み出されていった。



鏡の中にうつるアタシは、アタシの知らないアタシ。
そのまま手配された車に乗り込んでアタシはホテルへと送り届けられた。


付き添いでもある三橋に促されるまま、
通された部屋には、別々に移動してきた、ジジイとババア。

そして頼りない父親の姿。



「如月お嬢様のお支度が整いました」


三橋が声を出すと、一斉に視線がアタシの方へと集中する。


ババアがアタシの方へと近づいてくると身体チェックをするように、
アタシに触れては「まぁ、いいでしょう。三橋、ご苦労様」っと声をかける。




「如月さん、今日の貴方のお相手ですが、三杉財閥の御曹司です。
 貴方も悧羅校出身。三杉光輝さん……お名前くらいは知っているでしょう?」



ババアが告げたその名前に、悧羅校の伝説的な雲上人と人物像が一致する。
まさかねー……。



それと同時にどうして、そんな縁談がアタシの元に流れてきたのかも疑問が膨らむ。



「生きていたら、やすゑ(やすえ)が一番喜んだじゃろうて……」

ジジイが呟いた、やすゑは、大好きなばーばの名前。


この縁談には、ばーばが関係あるの?
益々わからない。



でも、今のアタシはレプリカのアタシ。
真梛斗が隣に居ないなら、アタシなんてどうなってもいいから。




その後、アタシたちは別の部屋へと通されて顔合わせ。

そしてババアたちが楽しそうに会話を弾ませている間も、
どっちでもいいアタシは、ただ黙ってその場に居続けた。



「如月さんと少し、席を外して宜しいですか?」



突然の言葉に、あちらの関係者が同意して、アタシは望まないまま部屋から連れ出される。



「さぁ、如月さん。
 ホテルの中庭へとご案内しましょう」



されげなく差し出された手を迷うことなくとったのは、
レプリカのアタシだから。

今、この瞬間に……アタシらしさは必要ない。


部屋を出て手を引かれるままに中庭へと連れられると、
アタシたちは肩を並べてゆっくりと歩き始めた。



「如月さんにお願いがあるんですよ。
 散歩の後、最上階に部屋をとっていますので、そちらで休まれませんか?
 貴方も、あの場所は退屈でしょう?」


っとさっきまでいた部屋であろう存在をにおわせながら言葉を続ける。


一通り、中庭の散歩を終えるとエレベーターに乗り込んで連れられたのは、
最上階の豪華な部屋。


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