【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

作業していた部屋へと戻った俺は、
ソファーへと体を横たえて、ゆっくりと目を閉じた。
4時間ほど眠った後、体を起こした俺は一足先に朝風呂を楽しむ。


8時が近づいてきた頃、三橋が姿を見せた。



「おはようございます。旦那様」

旦那様のその響きが、くすぐったい錯覚に陥りながらも彼女を迎え入れる。


「おはよう。三橋。
 ゆっくり眠れましたか?」

「はいっ。
 私にもホテルのお部屋をとっていただけて有難うございます。
 
 旦那様が手配してくださった、マンションのお部屋から通うことも可能でしたのに」

「貴方にもゆっくりと過ごしていただきたかっただけですよ。
 如月さんはまだベッドルームで眠っています」


「かしこまりました。
 では、お嬢様を起こして、その後、食事の支度をさせて頂きます」


三橋は俺に一礼すると、すぐに奥のベードルームへと足を踏み入れた。


暫くすると奥の簡易のキッチンから朝食の支度をして、
ミニサラダ・クロワッサン・スクランブルエッグ・ウィンナー・オレンジ、
そしてコンソメスープがお皿に盛られてテーブルの上に並んでいく。

朝食の準備が整った頃、如月がベッドルームから姿をみせた。


「おやおやっ、お嬢様。
 旦那様がお待ちですよ。どうぞ、こちらのお席へ」


三橋の言葉に戸惑ったような表情を浮かべて促された席へと着席する彼女に、
朝食をとり始める。

すると再びチャイムが鳴り響いた。


三橋がドアの方へと急ぐと、聖仁を連れて入室してくる。



「おはようございます。
 こちらをお持ちしました」


そう言って1通の封筒を俺の静かに置いた。
中身は婚姻届。

「聖仁、有難う」

「いえ。
 ではドアの外で控えております。
 お出かけの際は、お供いたします」

「あぁ。今日も1日頼んだよ」

「はい」


ビジネスモードの時の聖仁は、
親友同士といえども、主従の在り方を崩そうとはしない。


その後、食事を終えると、彼女の前に聖仁が持ち込んだ婚姻届を出す。


「今、俺のシークレットサービスが頼んでいた婚姻届を用意してくれました」


そう言ってテーブルに広げると、鞄から手帳を取り出して、毎日持ち歩いているボールペンを取り出すと、
目の前で住所や名前を書き込んでいく。

俺自身が書き終わると、ペンと用紙を如月の方へと向けた。


「両家の保証人欄には、来週末の土曜日・日曜日でそれぞれにお邪魔して記入をお願いしましょう。
 その前に、如月さんも記入してくださいね」

半ば強引に進める結婚への道程。
彼女は流されるように、婚姻届に名前を書き始めた。


彼女が記入終わったのを見届けて、俺たちは着替えを済ませてホテルを後にする。
三橋には一足先にマンションの方へと戻って彼女の部屋の片付けを頼んだ。



聖仁が運転する車に乗り込んで、デパートで次々と買い物を進めていく。
彼女は、時折、顔を曇らせながら俯いたまま俺の後をついて歩いた。


彼女を追い詰めるために、このデパートに来たわけじゃない。
わかっているのに、思い通りにならなくてむずがゆくなる。



「如月さん、次の店に行きましょう」


次々と買い物を終わらせていくと夕方、俺たちの新居になるマンションへと戻った。
正面ロータリーに車を停車すると、コンシェルジュがすぐに気が付いて出迎えてくれる。


「お帰りなさいませ。光輝さま、奥様。
 この度はご婚約おめでとうございます」

「昨日はご無理をお願いして申し訳ありませんでした」

「いえ。
 お部屋は予定通り、ご用意できております。
 先ほど、三橋さんがお部屋へと向かわれました」

「有難う。
 さっ、如月さん行きましょうか」


声をかけて奥のエレベーターへと乗り込むと最上階へと向かった。
最上階に二家族分のスペースが用意されてある部屋。

俺たち兄弟、それぞれのプライベート空間だ。


「如月さん。どうぞ、こちらへ。
 今日から貴女と俺の新居です。

 隣のドアは、俺の双子の弟の部屋なんですが、
 今は時折しか使われていません」 


聞かれてもいないそんな情報も発信しながら、
入室を促す。
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