【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~



- 回想 -


あの日……、あの悲劇は突然に起こった。

久しぶりに俺は聖仁に休みを出して、
真梛斗こと、天城真梛斗と共に外出した。


俺と真梛斗は、物心ついたころから一緒に居た。
双子の弟である竣佑は昂燿校の生徒で全寮制だったため、
幼等部に入学して以来、長期休暇以外に家に帰ってくることはなかった。

だからある意味、真梛斗とは、竣佑以上に兄弟のような感覚で接していた。


真梛斗の父親は、俺の父のサポート役を聖仁の父と共にしてくれていた。


同じように悧羅校に入学し、俺は理事長一族からの任命される生徒総会という立場へと、
悧羅校で出会った理事長の息子、綾音一綺【あやね かずき】や、
理事長一族と親戚関係となる伊舎堂裕真【いさどう ゆうま】たちと共に、
生徒総会メンバー専用寮で生活することが多くなった。


神前悧羅学院において、生徒総会メンバーは『雲上人』などと言われる立場で、
あまり他の生徒と親しげに振りまくことが出来ないそんなポジションだった。

生徒総会メンバーが声をかけないと、
他の一般生徒と呼ばれる生徒総会メンバー以外の生徒は気軽に話しかけることも許されない。

そんな雰囲気すら漂っていて一般生徒たちは遠巻きに見ていることが多かった。

そんな時でも、真梛斗だけは違った。

一綺や裕真たちと過ごしている間でも『光輝、少し話があるんだ』っと気さくに話しかけてきてくれる。
そんな真梛斗の存在がきっかけで、俺たちの時代は、まだ生徒総会メンバーと一般生徒たちの距離は近かったような感じだ。


真梛斗が一般生徒と生徒総会メンバーとの橋渡しを率先してくれた。


だから学院を卒業した後も聖仁と同じように……亡くなるあの日まで、
俺にとってのビジネスパートナーで、ライバルだった。



そんな真梛斗が一年半ほど前から、仕事を早く終われる日は何処かへと行くようになった。


オフの時間は、真梛斗が何処に居ようが自由なのだが、友人としての俺は気になってた。
そしてたまたま会食に出かけた先で、車の中から見つけた真梛斗の姿。


真梛斗はストリートでアコースティックギターを一本持って演奏しながら歌う女性の傍で立っていた。


僅か信号待ちで停車している一瞬の出来事だけだったが、窓を開けるとその人の突き刺さるような激しい声が聞こえた。
バラードを歌っているのに、突き刺さっているように届く歌声。

街ゆく人たちは、チラっとその人を見つめては、また正面を向いて自分たちの世界へと歩き出す。


俺の乗った車も信号が変わると同時に動き出したが、視線の先の真梛斗だけはその場所から動いている気配はなかった。



翌日、昨日真梛斗を見かけたことを訪ねると、真梛斗は照れ臭そうに笑った。

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