婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
「聞きそびれていたけど、里桜は介護職の前職とかはあるの?」
車が発進して少しした頃、となりの貴晴さんがそんな話題を切り出してくる。
付け加えるように「簡単に面接ってことで」と言った。
「ヘルパーの前は、短大を出てから事務職を三年ほどしてました。でも、その間に介護の勉強をして、東京の方に。それが、二十四の頃だったかと」
「へぇ、そうなんだ。デスクワーク?」
「はい。でも、雑用が多かったです。あと、ひたすら入力とか」
指示された仕事をひたすらこなすような職場だった。
進んで何かをしようとすると、やらなくていいと言われることも多く、やりがいを感じられる仕事とは到底言えない環境だった。
そのうちに、このままでいいのだろうかと考えるようになった。
「じゃあ、質問を変えるね。介護ヘルパーの仕事で、何が一番楽しかった?」
「楽しかったのは、利用者さんがにこにこされている姿を見ることでした」
即答した私を、貴晴さんは真面目な目つきでじっと見つめる。
その視線を受けて、再び口を開いた。
「一緒に何かをしたり、おひとりで難しいことは手助けしたり、たったそれだけのことなのに、すごく喜んでいただくんです。『ありがとう』って、笑顔で」
力仕事も多いし、きれいな仕事ばかりではない。
だけど『ありがとう』と直に言ってもらえる仕事をしていることに、私は何よりも喜びを感じていた。
人のために働くことは、私にとっての生きがいだった。