婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「では社長、何かありましたらお呼びください」


 私たちが入った扉の前で、和久井さんは丁寧に頭を下げる。

 ドアの向こうにその姿が消えていくと、社長室には貴晴さんとふたりきりになった。


「素敵な会社ですね……すっごくオシャレ」

「そう? それは良かった。そこに掛けて」


 入り口すぐのところで立ったままでいると、貴晴さんは入って右手前に設置してある応接のソファセットへと私を促す。

「お邪魔します」と言いながら腰を下ろし、改めて部屋の中を見回した。

 広い面積のガラス窓からは、自然光を多く取り込み、部屋の中はすごく明るい。

 インテリアはクールなコンクリートに合うブラックで統一されているけれど、観葉植物のグリーンや熱帯魚の泳ぐ水槽が心地よい雰囲気も作り出している。


「早速だけど、うちの事業内容と、各部門について説明していくね」

「はい、よろしくお願いします」


 私の向かいの席にやってきた貴晴さんは、束ねた資料のようなものを私の前に置いた。

 新入社員などに向けて使うオリエンテーション用の資料のようだ。

『株式会社ベストパートナージャパン』は現在、従業員数八百七名。本社を東京へ構え、関西と東海に支社を置く。日本各地に直営、提携の相談所を五十五店舗展開している。

 創業時の結婚相談事業を軸に、婚活イベント事業、最近ではマッチングアプリの開発を成功させ、好調に業績を上げている。


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