婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 震えながら出した声は次第に強さを増し、責めるような口調になっていた。

 初めて見せるこんな悪い顔に、貴晴さんはただ黙っている。

 見なかったことにだって、もしかしたらできたのかもしれない。

 私が目を瞑れば、このまま平穏な時間に戻るのかもしれない。だけど……。

 もう、引き返せない。


「私、この目でしっかり見ました……貴晴さんが、お腹の大きい女性の手を引いて、一緒に歩いているところ」

「え……?」

「あの時、貴晴さん私に気付いてましたよね? それなのに、気付かないふりで通り過ぎていって……」


 もう終わりだ。

 全てをぶちまけて、胸のつかえはふっと楽になる。

 しかし、新たな苦しさと痛みが襲う。

 重苦しい沈黙が広いリビングに落ち、落としていた視線をそっと貴晴さんの顔に向けた。

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