婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
電話の向こうの母親はかなり動揺している様子。
そんな調子だから、話が断片的で内容が掴めない。
でも、突然東京から〝日野〟という方の使いの人間が実家にやって来て、その方のお孫さんと私をお見合いさせたいと申し出てきている、ということがこの話の軸だろう。
でも、いろいろとちょっと待った。
「怪しいよ、絶対怪しい。新手の結婚詐欺の匂いがぷんぷんする」
どうやって私と実家の情報を集めたかは知らないけど、間違いなく詐欺に違いない。
東京に上京している娘がいる地方の家を狙った新手の詐欺だ。
『やっぱり、そうなのかしら……でもね、もうそのお見合いの日取りもあちらで指定してきて、東京までの航空券もくださって』
「えっ!?」
『それに、東京に出向いた際のホテルも予約してくださってるとかで……ちょうど、里桜の顔でも見に東京に行こうって話も出てたから、いい機会だってお父さんが……』
「え、ちょっと待って、お父さんはその話に乗り気なわけ!?」
そんな話をしている最中、電話の向こうから『里桜~、行くからな~。待ってろよ~』と、陽気な父の声が聞こえてきた。