婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


「えっと……来月一日から異動だったので、今月いっぱいまでは住めるはずだと思います」

「そうか……それじゃ、あまり時間はないね」


 視線を上げて、成海さんは何かを思案するように呟く。


「わかった。早めに時間を作るから、引っ越せる準備をしておいて」

「はい……わかりました」


 トントン拍子に進む話に呑み込まれながら、改めて成海さんの顔を見つめる。

 目が合った成海さんは柔らかい微笑を浮かべて、自分のシートベルトを外した。


「大丈夫? 狐につままれたみたいな顔してる」

「へっ……」


 成海さんの手がまた私の頬に優しく触れてきて、思わずぴくっと肩を揺らしてしまう。

 親指が撫でるように頬を滑った。


「近いうちに迎えにくるから、待ってて」


 夢か現か――その日限りだったはずの夢にはまだ続きがあって、私の目を覚まさせるように鼓動を高鳴らせていた。

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