【天敵上司と契約婚】~かりそめの花嫁は、きっと今夜も眠れない~


(たしかに、この声は反則だ。思わず腰砕けになりそう……)

だがしかし。

「わかっているだろうが、契約要項はすべてきっちり守ってもらうからな」

すっと半眼で再び耳元で落とされたのは、絶対零度のドスが効いた声。

悲しいかな、こちらの冷たい声の方が、結衣には聞きなれた天敵・鬼社長の声なのだ。

だから、甘いトーンの優しい声をだされると、調子がくるってしまう。その甘さに、変な風に胸の奥がざわついてしまうのだ。

「わ、わかってます。約束はきちんと守ります。守りますけど……」

「けど、なんだ? 意見ははっきり言え」

不寝番(ふしんばん)はちょっと……」

ごにょごにょと語尾を濁していたら、じろりと睨まれて慌てて言葉を繋ぐ。

「……恥ずかしいので、やめてもらえませんか?」

恥をしのんで必死で自己主張したのに、その答えはにべもなかった。

「無理だな。これは西園寺家の『しきたり』だ。多少恥ずかしいぐらいは我慢しろ」

「ううっ、そんなぁ」

(多少じゃない。ぜんぜん、多少じゃないっ!)

「部屋の外にいる分だけこれでもまだいい方だ。先代までは、同じ部屋の御簾(みす)越しに不寝番をしていたそうだからな。いっそ、そっちの方が(あきらめ)めがつくか?」

明らかにからかいを含んだ声音に、結衣はうっと言葉に詰まる。

御簾(みす)越しの不寝番など、いつの時代のヤンゴトナキ御仁(ごじん)閨事(ねやごと)だ。

(ふすま)の外と御簾(みず)の外。

どちらかなんて、選ぶまでもない。


< 7 / 7 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

表紙を見る
ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】

総文字数/145,875

ファンタジー349ページ

表紙を見る
【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~

総文字数/143,333

ファンタジー357ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop