初めて君に花を贈った日
少々癪だが、池上美鈴から貰った保冷剤のおかげで、下校時刻になる頃には左腕の腫れは随分引いていた。機会があればお礼くらいは言っておこう。

「朔…ちょっといい?」

帰るために荷物をまとめていると、莉央がバツが悪そうな顔をして話しかけてきた。

「左腕、大丈夫?痛かったよね…」

「ああ、平気だよ。俺案外頑丈だからさ」

「ほんとう?痛くない?」

「もう全っ然。蹴られたの右だっけ?左だっけ?て、感じだよ」

おどけたように誤魔化すと、教室の隅っこからピリピリと強い視線が伝わる。池上美鈴だ。あいつが俺のことを見てるのはいつものことだが、今に限って見てるというより睨んでるように見えた。

「一緒に帰ろ、朔。話したいことがあるの」

「うん。近くだし送るよ」

莉央は頬を赤らめて頷いた。俺が莉央を家まで送るなんてしばしばあることなのに、毎回こうして照れるのだ。顔が整ってるだけに。その姿は本当に可愛らしい。

ついさっき机を蹴っ飛ばそうとした子と本当に同一人物かと疑いたくなるほどだ。



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