公爵令嬢の復讐劇
「起きて、ソフィア。
起きろ!」

私は自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、重たい瞼を開く。

「デ、デリック!?」

何故私の寝室にデリックがいるのかと一瞬思ったが、辺りを見回して昨日の事を思い出した。
もう、お母様もお父様もいなくて、戻るべき場所も無いのだ。

「大した物じゃないけど、食べないよりましだから。」

彼はそう言い、クルミなどの木の実とドライフルーツを蜂蜜で固めた物を渡した。
確か、火を起こす事が出来ない場所に持って行くのに便利な携帯食料だ。

「ありがとう。」

私は渡された食料を食べる。

「気休めに程度にしかならないけど、なるべく目立たないようにこれを羽織って。」

デリックはそう言い、少し古いが質の良い茶色いフード付きのマントを私に渡た。
デリックも私のと同じマントを羽織、茶色い薬草やお金や武器、食料などが入った背負いやすくなるように紐の付いた茶色い袋を背負っていた。

「まだ日が昇ったばかりだから、人も少ない筈。
今の内に出来るだけ早くそして、遠くに行こう。」

俯いたまま答えない私に疑問を持ったのか、彼は一旦作業を止めて私の方を見る。

「なんで、デリックは私を助けてくれるの?
私のせいで貴方まで危険な目にあうのよ!
それに、もう私には何も無い、だから何かお礼をする事だって出来ないのよ!
なのに何で...」

私の言葉はデリックによって遮られた。

「俺はソフィアにとってただの従者に過ぎなかったのかよ!
お礼?俺がそんな物の為にお前を守っているって言いたいのか?!」

彼は私の肩を掴んで怒鳴る。
肩を掴む手が強くて痛い。
彼を怒らせるつもりじゃなかったけど、彼が激怒しているのが容易に分かった。

「違う。そんなつもりじゃ...」

デリックは聞く耳持たぬと言うように私の言葉を遮り、続ける。

「俺にとってソフィアは伯爵令嬢のお嬢様であろうと、追われる身であろうと、変わらない。
ソフィアはソフィアだ!
でも、確かにソフィアの言う通り、もう君は何も持っていない、だから俺も好きに行動させてもらうよ。」

彼はそう言い残すと袋を持ち地下室を出て行った。
私も彼の後を追う。
彼は荷物を馬に掛けるように置き、そして、私が小屋から出てきたのを見ると、私を雑に持ち上げて馬に乗せる。

「さっきはごめんなさい。
デリックは私の大切な友人だし、傷つける気は無かったの。
ただ、私はデリックに助けられてばかりで何もしてあげられないのが悔しいの...」

「俺こそ怒鳴ったりしてごめん。
俺は自分の意思で、ソフィアを助けたくて、行動しているから、ソフィアがそれを気にする事は無いよ。」

デリックはそう言うと、馬を走らせた。
彼の言っていた通り町に来るまで誰にも遭遇しなかった。
町の入り口の前に着くと私とデリックの間に緊張した空気が流れる。

「町に入るよ。」

私とデリックはコートのフードを被り、馬から下りて、町の入り口にあるアーチを潜った。
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