捨てられる前に捨てましょう
「あの……いかがなさいました?」

沈黙する私に、周囲の令嬢たちが気遣いの声をかけて来る。

私は優雅に見えるようゆっくりとした動作で、手にしていた扇を開き口元に隠した。
さすがにそろそろ顔が引きつりそうなのだ。



私の苛立ちの元凶は、先ほどから視界の端で非常に楽しそうに語らう集団だ。

その中央に居るのは金髪碧眼の見目麗しい青年。アディ・ディートハルト・ハルシュタイン殿下。

抜きんでた剣の腕を生かし騎士団に所属し、民からの人気も上々の第三王子だ。

眉目秀麗、文武両道。そんな物語に出て来るような完璧な王子は、実は私の婚約者でもある。

男子のいない我がクラウザー公爵家に、王位を継げないアディが婿入りする、王家と公爵家、双方の利益になる政略結婚なのだ。

つまり私は、国王陛下に正式に認められた、第三王子の隣に並び立つ権利を持つ唯一の女性。それなのに!

完璧な第三王子の周りはいつだって華やかな令嬢達が囲んでいて、私は近づく余地がない。

下手をすると夜会の間、殆どの別々に過ごしている。

それだけでも不満だと言うのに、更に頭にくるのは彼が令嬢達を喜んで受け入れていることだ。

延々とイチャイチャしているし、凄く楽しそうに笑っている。

私の立場を気遣う様子は全くない。

ああ、イライラする!
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