【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第11話 泣かせると思うけどごめんね
○檜垣の車

   夏音と檜垣、ふたりきり。
   緊張して助手席に座っている夏音。
   そんな夏音にくすりと笑う檜垣。

檜垣「そんなに緊張しなくたって、取って食ったりしないって」
夏音「えっ、ひゃい!」
夏音M「うっ、噛んだ」

   夏音、赤い顔で俯く。
   檜垣また、おかしそうにくすりと笑う。

檜垣「次のサービスエリア寄ろうか。ソフトクリーム買ってやるよ」
夏音「……おかまいなく」

   と、複雑そうな顔をする。

夏音M「28にもなって子供扱いか。まあ、10も年上の檜垣さんからしたら子供にしか見えないんだろうけど」

   夏音、小さくため息をついて外を見る。

夏音N「一週間前――」


(回想)
○SEオフィス

檜垣「天倉さん!」

   なんの前触れもなく、勢いよく社長室のドアを開ける檜垣。
   夏音、慌てて追いついてくる。
   仕事していた天倉、顔を上げてふたりを見る。

檜垣「夏音ちゃんを借りるぞ!」
天倉「借りるぞっていま、ランチに連れ出したじゃないか……」

   と、ため息をつく。
   勧められるよりも早く檜垣がソファーに腰掛ける。
   天倉も座り、どこに座るか一瞬悩んだ夏音の手を引っ張り檜垣、強引に隣に座らせる。

檜垣「ああ、順番間違った。今度カドの棟上げだろ? だから、夏音ちゃんを連れていきたいと思って」
天倉「……そういうこと。でも僕、ここしばらく予定が詰まってるからって……」
檜垣「いや、天倉さんは来なくていい」
天倉「……は?」

   天倉、意味がわからず檜垣の顔をまじまじと見る。
   夏音、なにが起こっているかわからず、ふたりのやりとりをぼーっと見ている。

檜垣「カドの担当は夏音ちゃんだから、夏音ちゃんさえいれば事足りる。それに借りるって言っただろ」
天倉「ああ……」

   合点がいったのか、天倉が小さく頷く。

天倉「あのね、檜垣。一応、世間的には夏音は僕の妻なの。人妻が他の男とふたりで旅行とか許されると思ってんの?」
檜垣「仕事だろ、仕事。それともなに? なんか不都合なことでもあるの?」
天倉「……」

   気まずそうに天倉、黙る。

天倉「……夏音はいいの?」

   気持ちを切り替えるように小さく咳払いし、座り直した天倉が口を開く。

夏音「あっ、はい!」

   ぼーっとしていたところへ突然振られ、慌てて返事をする夏音。

夏音「誰かが行かなきゃいけないことですし、有史さんが行けないなら……」
檜垣「はい、けってーい! ほら、夏音ちゃんだって行きたいって!」
夏音「えっ、あっ、別に行きたいとは」

   はしゃぐ檜垣に夏音、目を白黒させる。

天倉「わかったよ。その代わり、泊まるところは僕が決めるから」
檜垣「天倉さん、過保護!」

   がはがはと豪快に檜垣が笑う。

(回想終わり)


○再び檜垣の車

   ぼーっと窓の外を見ながら、いきさつを思い出している夏音。

夏音M「いくら檜垣さんが強引だったからって有史さん、許可出しちゃうんだもんなー」

   夏音、ため息をつく。

檜垣「……ねちゃん。夏音ちゃん!」
夏音「あっ、はいっ!」

   檜垣が呼んでいることに気づき、夏音、慌てて顔を向ける。

檜垣「もう着く」
夏音「はい」

   車は森の中へ入っており、カドの建物が見えている。
   前回来たときと違い、たくさんの車やバイク、自転車が停まっている。
   建物の脇へ檜垣が車を停める。
   車を降り夏音、建物を見上げる。
   建物は骨組みだけができている。

夏音M「いよいよって感じするなー」

   職人と関係者らしき人たち、さらには近所の人たちなのか集まっている。

中年男性「檜垣オーナー!」

   年配の、責任者とおぼしき男性が檜垣に近付いてくる。

檜垣「ご苦労様」
男性「これで一区切りです」

   と、笑う。

男性「そろそろはじめても?」
檜垣「ああ、頼む。……行こう、夏音ちゃん」

   檜垣に伴われ夏音、男性の後についていく。
   すぐに棟上げの儀式がはじまり、夏音は神妙に見ている。
   施主や棟梁の挨拶が済み、餅まきになる。

檜垣「夏音ちゃんもまいて」
夏音「えっ、私がですか!?」

   と、お菓子の入った箱を渡され戸惑う。

檜垣「だって、将来俺の嫁だし?」
夏音「嫁ってなんですか!?」
檜垣「俺はその予定だけど?」
   檜垣に背中をドンと押され、戸惑ったまま夏音がお菓子をまく。

夏音「お餅じゃないんですね」
檜垣「うちの菓子。宣伝になるだろ」

   檜垣がいたずらっぽくニヤリと笑う。

檜垣「絶対、いい店にしような」
夏音「はい」

   バンバンと檜垣から背中を叩かれ、夏音が笑う。


○ホテル(夕)

   前回、天倉と泊まったのと同じホテル。
   チェックインを済ませてエレベーターへ乗るふたり。

檜垣「それにしてもスイート二部屋とか正気か、天倉さん」
夏音「そうですね」

   と、苦笑いする。

檜垣「荷物置いたらそっち行く、じゃあ」
夏音「えっ、あっ」

   止める間もなく檜垣、自分の部屋へと行く。

夏音「はぁーっ」

   夏音、ため息をつきつつ自分の部屋へ入る。
   荷物の整理をしながらそわそわしている夏音。

――ピンポーン。

夏音「は、はい!」

   インターフォンが鳴り、慌ててドアへと夏音、駆け寄る。

檜垣「よっ」

   いいともなんとも言っていないのに、強引に檜垣が入ってくる。

檜垣「ん? なんかこっちの部屋の方が豪華じゃね?」
夏音「そんなことないですよ。……たぶん」

   どかっと檜垣がソファーへ座る。
   どうしようか迷っていた夏音、檜垣に手を引っ張られ強引に隣へ座らされる。

檜垣「そうか? 天倉さんはなんだかんだ言って夏音ちゃんに甘いもんなー。部屋が別々なのもあれだぞ、俺が夏音ちゃんと一夜を共に過ごすとか、自分が耐えられないから」
夏音「そんなこと……」
夏音M「……あるんだろうか」
檜垣「それにしても夏音ちゃん、年の割にいろいろ不用心でおじさん、心配になっちゃうよ?」
夏音「え?」

   ソファーの上へ夏音、檜垣から押し倒される。
   のしかかる檜垣を間抜けな顔で見上げている夏音。

檜垣「だから天倉さんもあんなに心配性なんだろうけど……」

   少しずつ近づいてくる檜垣の顔を夏音、じっと見つめている。
   檜垣の目が閉じられ、唇が触れる寸前。

夏音「いやっ」

   顔を背け、手で檜垣の顔を押さえる夏音。

檜垣「残念。案外、イケると思ったんだけどな」

   離れた檜垣は淋しそうに笑っている。

檜垣「ん、もうこんなことはしない。それよか、店の話をしよう。他にも夏音ちゃんにお願いしたい店があってさ……」

   檜垣はもう、なんでもない顔をして話している。

夏音「ああ、はい」

   夏音も座り直し、檜垣の話を聞く。

夏音M「檜垣さんは嫌いじゃない。でもなんで……」


○同ホテル バー(夜)

   カウンターに並んで座るふたり。
   檜垣の前にはウィスキー、夏音の前にはカクテル。
夏音N「夕食のあと、檜垣さんにバーへ誘われた。どうしようか迷ったけど、このもやもやした気持ちをどうにかしたくてOKした」
檜垣「夏音ちゃんはさ。どうして天倉さんとの偽装結婚を承知したの?」
夏音「最初はいいと思ったんれすよ、有史さんがいまでも深里さんを想い続けているの。純愛、尊いって。だから偽装結婚も承知したし」
檜垣「夏音ちゃん、酔ってる?」

   と、少し心配そうに夏音の顔をのぞき込む。

夏音「でもならなんで、私に優しくするんれすか? 罪悪感? それとも深里さんの代わり? そんなの全然嬉しくない!」

   夏音、グラスに残っていたカクテルを一気に飲み干す。

夏音「……お代わり」
檜垣「夏音ちゃん、そろそろやめた方が……」
夏音「なんれすか、檜垣さんも有史さんと同じで保護者面でれすか」

   じろりと夏音が檜垣を睨む。
   檜垣、ため息をつき、小さく頷いてバーテンに新しいカクテルを作ってもらう。

夏音「私のこと、好きになる気もないくせに。私に優しくしないでほしい……」

   俯いた夏音、苦しそうな顔をする。

檜垣「そっか。夏音ちゃんは天倉さんが好きなんだ」
夏音「わ、私は、ゆ、有史さんが好きとか」

   一気に赤くなった夏音、目の前に置かれたカクテルを一気にあおる。

夏音「きゅぅぅぅぅー」
檜垣「あぶねっ」

   酔い潰れて椅子から崩れる夏音を檜垣、慌てて支える。


○同ホテル 夏音の部屋(夜)

夏音「私は……有史さん……好き……」
檜垣「はいはい」

   酔い潰れた夏音を部屋に運ぶ檜垣。
   夏音を部屋のベッドへ寝かせ、そっと額に落ちかかる髪を払うようにして撫でる。

夏音「有史さん……」

   天倉の名を呼び、泣きながら寝ている夏音に檜垣、つらそうに顔を歪ませる。

檜垣「俺、無理はしない主義なんだけど。やっぱ夏音ちゃん、欲しいわ。きっといっぱい泣かせると思うけど……ごめんな」

   檜垣、眠っている夏音の唇にキスし、シャツのボタンを外す。
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