距離感
王子と手を繋いだ。

…酒の力を借りて。

王子は嫌がって、振り放つことはしなかった。

でも、「好きな人と手を繋げ」と考えたみたいだ。

その王子の言葉に、私は心底絶望した。

王子が、私のことをどう思っているのかわかってしまったからだ。

恋愛対象外…ってことだ。

だから、冷静にそんなことが言えるんだろうね。

要さんに対する想いを聴いて。モヤモヤした理由がわかった。

王子は、恋愛を拒否しているんだなって思った。

周りにどんなに素敵な人がいたとしても。

恋愛感情はもたないって決めているように。

私に対してだって1ミリも恋愛感情がないんだ。

だから、あんなこと言ったんだ。

「姉ちゃん、久しぶり」

大晦日。

私は新幹線に乗って長野に来ていた。

わかってはいたはずなんだけど。

想像以上の寒さに震えが止まらない。

駅を出ると、道路の端には雪が積もっている。

「本当に来るとは、思わなかったなぁ」

と弟が言うので、「ごめん」と謝った。

「いや、大歓迎だって」

弟が笑った。

年末年始、私は実家に帰りたくなくて。

家でゴロゴロしようと思っていたら。

弟から連絡があって「暇ならこっち来てよ」

と言ったので、素直に行くことにした。

弟が住む家に行くには。

新幹線に乗って。さらに在来線に乗り換えて。

駅からさらに車で30分ほどの道のりなのだが。

新幹線を出たところで。

弟が車で迎えに来てくれた。

弟のことだから、軽トラで迎えに来るんじゃないかと思っていたが。

軽自動車で来ていた。

「オバサンの車、借りたんだ」

弟は、伯父夫婦の家に居候している。

車に乗ると、弟は「お昼食べに行こう」と言って車を走らせた。

「俺の好きなもん食べて良い?」

「もちろんだよ」

「じゃあ、姉ちゃんの奢りで良い?」

「うん、遠慮しなくていいよ」

弟は、マックの駐車場に車を止めた。
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