距離感
きっと、部長が王子に教えたのだろう。

午前中、部長が王子を呼び出していた理由。

朝、見た花瓶と花が脳裏をよぎる。

「甘くないケーキもいいけどさ」

「へ?」

お互いまた、黙ったかと思えば。

急に王子が話し出す。

「甘くないケーキも良いけどさ。チョコチップクッキーも食べたかったよ」

頭上から降ってきた言葉に。

「え」と声が漏れる。

「まさか、王子・・・仏壇にお供えしてあるケーキ食べたんですか?」

そこまで、常識のない奴だったのかと思うと。

ひいてしまう。

「えっ、仏壇にあるケーキは食べてないよ。あれはおじいちゃんのでしょ! 余ったやつ、母親からもらって食べたんだよ」

きっと、王子のお母さんが話したのだろうな。

そして、チョコチップクッキーのくだりは、誰から聴いたのだろうか。

まさか、王子が知っているだなんて思わなかった。

手すりをぎゅっと握りなおす。

「私の作ったものって、どうやら美味しくないみたいですよ」

皮肉ぶって言うと。

「えー。それはないよ。(かなめ)ちゃんの味覚が馬鹿なんだよ」

はっきりと言う王子に。

この前の王子のお母さんを思い出した。

こんな整った顔をして、はっきり言い切るのを聴いてしまうと。

驚きとショックを隠せなくなる。

たまに、王子って。

凄いこと言うよなって思ってしまう。

いつも、ニコニコしている人だからこそ。ビビッてしまうのかも。

「機会があったら、作りますよ」

「ほんと? 約束だよ」
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