距離感
「福王子君、家、〇〇方面だったよね? 勝又さんと一緒に帰ってくれないかな?」

香川さんの言葉に、王子はニッコリと笑ってこっちに近寄ってきた。

飲み会以降、王子とは喋っていない。

久しぶりに見る正面からの王子の顔に思わず目を背けたくなる。

「ああ、大丈夫ですよ」

と承諾してくれたのは、いいものの。

背後で目をギラつかせている(かなめ)さんが見えた。

「あの、私。一人でも大丈夫ですから」

要さんが怖い。

ただ、その思いに尽きるばかりだ。

「何、言ってんの!! 女の子一人で夜道歩いたら、絶対に駄目だよ。帰り、ちゃんと待っててよ!」

「…はぃ」

何で、こうなってしまったのか。

皆にわからないように「はぁぁぁ」とため息をつく。

王子と喋るだけで神経がすり減る。

こんなこと人生で経験したことがない。

何で、カップルと一緒に帰らなきゃいけないんだろう。
< 8 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop