【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
刈宿さんが諏訪さんにライバル心を抱いているのはだれもが知っている話だ。当の本人も隠していない。
前述したとおり、この会社は五年前にふたつの会社が合併してできた。正確には一方がもう一方を吸収した形だ。
当然ながら、された側のほうが立場が弱い。合併当初は社内でも、旧所属がどちらであるかによって、ギスギスした対決がくり広げられていたと聞く。
刈宿さんは吸収したほうの会社にいて、諏訪さんはされたほうにいた。楽ではない立場から会社に実力を認めさせ、今の地位までのし上がったのだ。
あとから来た年下の人間に追い越された刈宿さんが、おもしろくない気分を抱くのもしかたないといえば、しかたない。
「諏訪さんがお戻りになったらご連絡を入れます」
「いやいや、彼が逃げたらそれも意味がない。けっこうだよ」
さすがライバルの生態をよくわかっている。
「きみの時間を邪魔してしまった。また来るよ。それじゃ」
外国映画の登場人物みたいな仕草でぴっと人差し指と中指をそろえて立てると、彼は優雅な足取りでフロアを出ていった。
私は、ついふうっと息をつき、もう一度ドリンクボトルを取り出した。
この会社では役職が設定されていない。最高経営責任者であるCEO、マーケティングの最高責任者である刈宿CMO、開発のトップにCTOがいるのみで、あとはみんなフラットだ。案件ごとにチームを組み、都度リーダーを決めて動く。
明確な力関係があるのは責任者の間だけなのだ。CEOは別格、2番手として諏訪さんが君臨し、刈宿さんはその下にいる。
虎視眈々と、というよりはあっけらかんと、彼は諏訪さんの座を狙っている。諏訪さんも当然承知のうえで、「鬱陶しい」とぼやいている。
ハーブティにたっぷり入った花の香りが私を癒す。
……一緒に暮らすだって?

「じつは俺、引っ越したばかりでね。どう使おうか迷ってた部屋がひとつ、まるまるあいてる。そこにきみが入ればいいと思うんだが」
どうかな、と諏訪さんがフォークを持った手を軽く上げた。その流れでパスタを口に運ぶ。きれいに食べるものだと毎度思う。
私はほっとした。
「つまり、ルームシェアのような形態でしょうか?」
「近いかな」
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