庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


 
 少し歩いたところで、ふと後ろから誰かが駆け寄ってくる気配があった。嫌な予感がして、ハッとして振り返る。

 だがその時にはすでにバッグが私の手からするりと抜き取られていた後だった。声を出す暇もなくあっという間の出来事だった。ひったくりだと気付いた時にはすでに男の姿はなかった。

「嘘……でしょ」

 呆然とその場で立ち尽くす。街中は変わらず日常が続いているのに、耳が真空状態になり、まるでサイレント映画を見ているよう。

 あー、私なにか悪いことしたかな。この前蚊を殺しちゃったから? 子どもたちにいじめられていたカエルを助けなかったから? 
 
 そんなことを考えているうちに気が付いたらその場にへたり込んでいて、頬には涙が伝っていた。

 バッグもない、財布もないスマホもない。足は靴擦れしてストッキングに血が滲んでいる。なんて情けないんだ。さらにはこんな時、飛んできてくれる彼氏ももういないなんて。


「大丈夫? 警察呼びましょうか?」

 絶望すぎてうずくまっていると、ふと頭上から優しい声が聞こえてきた。恐る恐る顔を上げると、そこには端正な顔立ちの男性が私を心配げに覗き込んでいた。

「あ、えと……大丈夫、です」

 しどろもどろになりながらも、なんとかそう答える。声がわずかに震えているのを自分の耳で聞いて、あー私、怖かったんだと自覚する。今さらだけど命だけはとられなくてよかった。




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