優等生の恋愛事情
要するに「そんな企画が文化祭ってよく通ったね」という……。

もともとは女子の希望から始まったのだ。

喫茶店やりとか、メイド服着てみたいとか、そういう希望があって。

それが、どうせなら稼げる店にしようぜと、どんどん盛り上がっていって。


「実行委員とクラス委員がすっごい頭のキレる人たちでね。家庭科の先生とか上手に巻き込んだりして。企画を通すのもうまいことやったんだって」

「策士だね」

「うん。実行委員はウル君とコミーって言うんだけどね、驚くほど仕事できる人たちで。あ、クラス委員の片方は澤君なんだよ」


諒くんはいつだって私の話を真剣に聞いてくれる。

だからついつい、いっぱい熱心に話しちゃう。


「いいなぁ、共学は」

「えっ……ええと……」


(どうしよう、なんか無神経だった……!?)


でも、それは考えすぎだったみたい。


「ごめん。わざと言ってみただけ」

「え?」

「羨ましいから意地悪言ってみただけ」

「もうっ……」


よかった、本当に気にしていないみたいで。


(拗ねたふりとか、わざと意地悪とか……かわいくて、きゅんとしちゃうじゃないっ)


「それよりも。聡美さんも犬とか猫になるってことだよね?」

「うん。私は猫の予定だよ。澤君とハルピンは犬なの。あ、瀬野ちゃんも猫かな?」

「楽しみだな。聡美さんの猫耳メイド」

「えっ……と……お待ち、しております」


ふと正面を見ると、夜の車窓が鏡になって、仲良く並ぶ浴衣姿のふたりが見えた。

なんだかちょっと、くすぐったい気持ち……。


「諒くん」

「うん?」

「学校が始まったらどうなるのかな」


何が不安とかじゃないんだけど、なんとなく。


「そうだなぁ。今みたいに会うのはさすがに無理として」

「うん」

「でも、僕のほうは部活がそんなガチガチじゃないから。聡美さんが大丈夫なら放課後けっこう会えると思うよ。僕んち桜野の近くだし」

「私も部活は緩めなほうだから。あっても遅くまで残るとかないし」

「じゃあ、普通にたくさん会えそうだね」

「うん。テスト前は我慢かもだけど」

「確かに」


こうして2学期の話をしていても、ちっとも辛くない。

夏休みの残りの日数を数えて悲しくなったりもしない。

だって、私はまだまだ目いっぱい楽しむつもりだから。

勉強以外のこと、たくさんしようって、ふたりで約束したんだもん。

それに、2学期に向けて勉強だって頑張りたい。

学校は違っても、彼と一緒に気持ちよく新学期をスタートしたいから。


「僕、学校が始まったら――」

「え?」

「聡美さんに会うために家に帰るみたいになりそうだ」


(諒くんっっ)


始まったばかりの二人の恋をのせて、各駅停車の列車がのんびりと次の駅を目指していた――。



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