優等生の恋愛事情
諒くんへきた八代君のメッセージはというと――。


《入口にいる。頼むから今すぐ迎えにきてくれ》


「何これ……僕、意味がわからないんだけど」

「んあ? でもよ、土下座してるぜ?」

「本当だ。すごいインパクトあるスタンプだね……」


事情はまったくわからないけど、とにかくお迎えを切望してるのは確かみたい。


「とりあえず行ってやれよ。俺は溝口さんと一緒にここで“あったか~い”茶ぁ飲んでっから」

「“ここはひとつ俺が行ってくるわ”とか、男気のあるとこ見せようとかないのかよ?」

「ねえな」

「ああもう!わかったよ!ちょっと“拾って”くるから!ふたりともここにいてよね!」

「「うぃー」」


八代君のお願いを、諒くんが無下にできるはずがない。

六川君は私なんかよりずっと、そのことをわかっていたのかもしれない。

残った私たちは学食の隅っこの席で、本当にあったかいお茶を飲みながら待つことにした。


「俺ら、こんなふうにふたりで話すのって、なにげに初めてじゃね?」

「確かに、そうかも」


中学の頃、六川君はいわゆるクラスの一軍にいる人だった。

そして、その幼馴染で親友の諒くんも、自然にそういう位置づけになっていた。

けれども、まったくタイプの違うふたり。

でも、違うキャラ同士それぞれの魅力と求心力を持って、クラスの真ん中にいた気がする。

男子でひどいいじめがなかったのは、ふたりの影響があったんじゃないかなって、思い返せばそう感じる。


「うまくいってるみたいじゃん」

「えっ」

「諒と溝口さん、やっとくっついたのな」


ずっとずっと前から、全部全部お見通しだったみたいな、そんな口ぶりだった。


「六川君って、諒くんのことなら何でも知ってるみたい」

「ほほーう、“諒くん”ねぇ」

「なっ……!」


ニヤリと笑われて、思わず顔が熱くなる。


「諒は? 溝口さんのことなんて呼んでんの?」

「本人に聞けばいいでしょ」

「あいつ、仲間内で彼女とのこと絶対に話さねえから」

「え?」

「それだけ大事に想ってるってこと」


六川君はあったかいお茶をちびちび飲みながら、「ここだけの話な」と言って聞かせてくれた。


「男ってアホだからさ、彼女できたりすっと嬉しくて舞い上がっちまって、余計にアホになったりするわけ」

「アホになる……余計に……」

「そっ。で、彼女と進展あったりすると、いい気になって自慢こいたりする奴もいるわけだ」

「でも、そんなことされたら……」

「彼女は気の毒って話な」


(だから、諒くんは……)


「諒って基本マイペースじゃん? まあ率直だし、他人の目とか無駄に気にしたりしないし」

「うん」

「けど、自分は平気でも彼女は別だからって。彼女がからかわれたりして嫌な思いするとか、絶対ないからって」

「うん……」

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