Fairy




『 紅苺! 』




扉を蹴り破る音と共に、晴雷さん達が急いで部屋の中に入ってきた。
晴雷さんと游鬼さんは既にウィッグを外していて、いつもの真っ白な髪と銀色の髪だ。

放心状態で床に座り込む私に、額から血を吹き出してベッドに倒れ込む、桜翅。
彼ら三人はそれを見て、一瞬にして状況を把握したのだろう。




『 …よく出来たね、紅苺。 』




晴雷さんは私の元へ来て座ると、そう言って私の髪を撫でた。
その手の平の暖かさが、柔らかい香りが、不思議と沈んだ心を落ち着かせてくれる。


そして晴雷さんはじっと私の姿を見ると、何かに納得したかのようにして、そっと呟いた。









『 やっぱり君は、紅が良く似合う。 』










その言葉でやっと、自分が紅苺になったんだということを改めて自覚する。


さっきまで私を見てくれていた目は固く閉じられ、私の手に触れていた大きな手は、力なく冷たくなってしまった。




『 渢さん、ちゃんと報酬貰うからね〜。 』

『 はいはい、ちゃんと渡すよ。紅苺ちゃん、ありがとう。…お疲れ様。 』




游鬼さんとのやり取りで、渢さんもこの部屋に来たんだということが分かった。
けれど私は、渢さんの言葉に答える気力がなく、ただ小さく頷くことしか出来なかった。

晴雷さんは立ち上がって游鬼さんと渢さんの元へ向かい、そんな中、無表情なままの狂盛さんが私の方へやってきた。


彼は私の隣にそっとしゃがむと、じっと私の目を見つめる。









『 ね、出来たでしょ。 』









その言葉に頷いた瞬間、止まったはずの涙がまた溢れだしてしまった。
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