Fairy Ⅱ
晴雷さんは『 ほら、行ってきな。 』と言いながら紅苺さんの背中をそっと押していて、まるでその笑顔は、母親のようだった。
『 滴草さん達は~? 』
『 現場で顔を合わせるって言ってたでしょ。 』
狂盛さんの運転する車に揺られて数分、俺の隣に座る游鬼さんが呑気な声でそう言った。それに対して、助手席に座る紅苺さんがそう答えれば、いつものように『 えーそうだっけ? 』なんてヘラヘラ笑う。
その間、俺も狂盛さんも黙ったままで、車内にはゲーム音が小さく鳴り響いた。
『 烏禅くん、よく仕事前なのにゲームできるね。 』
「 いや、逆にゲームしないと落ち着かないんすよ。 」
でも今度は自分に話しかけられて、少しだね胸が高鳴ったような気がした。
そのせいでGAME OVERの文字が画面に広がるも、それを隠すようにして消し、またゲームを再開する。
そしてしばらくすると、ようやく麻薬取引が行われるホテルまでやって来た。
まるで海外映画に出てくるように立派な建物が、韓国にあるだなんて、と思わされるようだった。
『 紅苺は僕の後ろについてて。烏禅は、游鬼さんの後ろに隠れてるんだよ。 』
『 ちょっと~、なんで狂盛が指示してんの? 』
『 いいから、早く向かうよ。 』
大人しく狂盛さんの指示を聞き入れていれば、そこで何かと文句をつけてくるのが游鬼さん。呆れて溜息をつきそうになっていると、すかさず紅苺さんが背中を叩きながら叱っていた。
無表情の狂盛さんと一瞬だけ目が合い、どちらからともなくフッと逸らす。
地下へと続く階段には、てっきり、ガタイのいい男達が立ちはだかっているようなものだと思っていた。
けれどそれらは既に、滴草さんと青葉さんが始末したらしい。
目の前に横たわるのは、首を歪に傾けたまま倒れている男達だった。