TanKa
「うん、短歌だな。あのリズムがおいらの心に……グイっと!」

片方のこぶしを、グッと胸に近づける動作をする田中さん。
病室の中にいるみんなが、それを見て笑い声をあげる。
タケチは、窓の外を見ながら、それでも聞いているようで、うっすらと顔には笑みがこぼれている。

「たなっつぁん、へたっぴじゃねーか。俺の方が、まだまだ上手ってもんよ」
「なぁにを言う!」

痩せすぎな、それでどこか品のある、眼鏡のおじさんが話に割り込む。
さっきの百人一首では、あまり活躍できていなかった人だ。

「じゃったら、おまえさんは、その……何の歌を歌うのかぃ?」
何を、と聞かれ、戸惑うのは、痩せたおじさんだけではなかった。

「ふん、知らんのだな……おまえさんたちも、長歌、挽歌、相聞歌は知らんか?」

チョウカ? バンカ? 一体、何だろう。

「それ、知りたい。教えてくれ」
腕をくんで、窓に目をやっていたタケチが、いきなり顔ごとこちらを振り向けた。
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