明日は明日の恋をする
「俺は席を外すから、もう少し頰を冷やしな。」

鈴里さんに微笑みかけ、俺は秘書課を出る。足早に歩いていたが次第に走り出した。そしてそのまま営業一課の部署へ向かい、勢いよく乗り込んだ。

「沢田課長!」

営業一課で沢田課長を見つけると、怒りに満ちた大きな声で叫ぶように呼んだ。

「高瀬?…どうした、血相変えて。」

状況を飲み込めない沢田課長は呆気にとられたような顔でこっちを見る。

頭に血が上っている俺は沢田課長に無言で壁際まで詰め寄る。そして両手で胸ぐら掴んで思いっきり睨みつけた。

「…何で、何で鈴里さんと別れてあげないんだ。アンタじゃ鈴里さんを幸せに出来ないだろ!?」

鈴里さんの名前を出され、沢田課長の顔つきが変わる。

「俺と鈴里さん…マイの事知っているのか。マイが話したのか?」

「そんな事はどうでもいい。質問に答えろよ。彼女に手まであげやがって。」

「高瀬には関係ない事だろ?手を離せ。」

その言葉が俺の(かん)(さわ)り、手に力を入れ気がつけば沢田課長を殴ろうとしていた。

「高瀬課長、やめて!」

ドアの方から鈴里さんの声がする。俺の後を追いかけてきたのか。

「マイ、早くなんとかしてくれ。」

沢田課長は鈴里さんの方を見て訴えた。そして鈴里さんは俺と沢田課長の間に入り、俺の方を向いた。

「大丈夫…私は大丈夫ですから。もうやめて下さい。」

鈴里さんの表情は全然大丈夫に見えなかった。無理しているのが目に見えて分かる。

「嫌なんだよ。惚れた女が辛そうにしてるのは…。」

「…高瀬課長。今、何て?」

ヒートアップし過ぎて全然周りが見えてなかったが、いつのまにか社員が出社してくる時間になっていて、騒ぎが起きている営業一課には沢山の野次馬が集まっていた。

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