明日は明日の恋をする
「…うん。」

私は進藤さんを見て微笑んだ。本当は別の事が頭をよぎったのだが、その事は言わなかった。

しばらく進藤さんは何も言わずに私を後ろから抱きしめていた。私もそっと進藤さんの手に触れ、幸せな時間を堪能した。時折くる海の香りを乗せたそよ風がとても心地良かった。

「なぁ明日香。名前を呼んでくれないか?」

「…ケイスケ。」

「もう一回…。」

「うん…ケイスケ。」

後ろから抱きしめられているから進藤さんの顔は見えないが、何となく微笑んでいるように感じた。

進藤さんが我に返ったような感じでパッと私に抱きついていた手を離した。突然離されたので、私は思わず進藤さんの方を振り向く。その拍子にバランスを崩してしまい、よろけた私を進藤さんが支えてくれた。

「あ、ありがとうございます、進藤さん。」

「もう名前で呼ばないのか。切り替え早いな。」

進藤さんが声を出して笑った。凄くレアな光景を見ている気がする。

そして二人で柵に掴まり、海を眺めた。

私が未知の世界へ踏み出す事が出来たら…この関係は終わりなのかな。そう思うと胸の奥がモヤモヤした。
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