ただ好きだから
「さて、変装していかないとな。んー、なっちゃんはこの服のままの方がいいな」


「えぇ、これで帰るの?さっき、笑ってたじゃん」


登坂に借りた服、ゆったりして着心地は抜群だが、デカイ。


「いやいや、俺的には好きだよ。ドレスじゃ目立つし、これに帽子とメガネしていけば、誰だか分かんないじゃん」


「うー、そう言われればしかたないか」


夏月は、しぶしぶだが承諾した。



登坂も帽子とメガネをつける。


「よっしゃ、準備オッケー」


マンションを出て、タクシーを拾うとそそくさと乗り込む。


登坂は窓の外を見ながら、すっと夏月の手をとると指と指を絡めてしっかりと手を繋ぐ。


夏月は、横目でチラッと登坂を見るが、登坂は向こうを向いたまま。


(んーっ、恋人つなぎなんてしたことないし、恥ずかしいよ。もぉ、早く、ホテルにつかないかな)


と思いつつも、ホテルが近づいて来ると、ちょっぴり寂しく感じる夏月だった。


タクシーを降りると、


「じゃあ、また明日ね」


夏月は小さく手をふる。


登坂も小さく手を振って、ニコっとした。


ドアが閉まって、タクシーが動き出す。


タクシーが見えなくなるまで見送ると、少し周りをチェックしてから、ホテルへと駆け込んだ。
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