ただ好きだから
「この間、無事に帰れた?」


「お陰様で」


「よかったぁ。連絡先も聞かなかったし、どうだったかなって、気にしてたの」


「あ、俺の方こそ、連絡しなくて」


「ううん、いいのいいの。テレビに出てるとこ見たら、大丈夫だったんだろうなって勝手に思ってたから」


「いや、俺はもう一度店に行ってちゃんとお礼をしたいと思ってて」


「えー、ホントに?だったら、店の子達も喜びそう。あの後、ずーっと臣くんの話で盛り上がってたから」 


ワインを1本、空けた頃、2人の会話も随分と盛り上がっていた。


「ね、Wikipediaで調べて、俺のこと何て書いてあった?」


「えーっと、なんだっけ?あぁ、思い出した。…経験値0の…シンデレラボーイ⁈」


「あぁ、そんなのあった、あった。他は?」


「んーっ、元美容師さんでしょ。でも、半年で辞めたんだっけ?」


「まぁ、そうだけど、他にもっと、いいのなかったっけ?」


「んー、なんだっけ、そうだ、映画で新人賞、いっぱい貰ってた」


「あぁ、そうそう」


「ねぇ、Twitterとか、インスタ見てたら、ファンの人達、皆んな、臣くんって言うでしょ、だから、広臣くんなのに広君じゃないんだーって」


「そうだね、そこあんまり突っ込まれたことないけど」


夏月のツッコミは酔っているせいなのか、ふざけているのか、それとも天然なのか。


だが、そんな会話で盛り上がっていると登坂の携帯に着信が。


「あ、ちょっと、ごめんっ」


携帯を持って部屋の外に出る。


「静かになっちゃった」

夏月は、静かになった部屋でBGMに耳を傾けてうっとりしていた。


(んー、今日はいいことづくしだな。結婚式も感動したし、偶然だけど、臣君にも会えたし…、ふぁぁ…)


大きなあくびが出た。
< 9 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop