寡黙なダーリンの秘めた愛情
蓮がここまで、必要以上に美咲を心配し過保護なのは、実は正当な理由があった。

美咲の母、智恵子もまた、切迫早産の末に美咲を産んだ経緯があるからなのである。

23年前、蓮が八雲家に預けられていたときのことだった。

なかなか子供を授からなかった智恵子は、いとこの恵子から期間限定であずかっていた蓮を我が子のように可愛がってくれていた。

不妊治療の末、ようやく美咲を授かった智恵子と慎太郎は、妊娠がわかったとき、それはそれは喜んだ。

息子のような蓮も、2人の喜び様を見て、心のそこから喜んでいた。

智恵子は、蓮に話しかけるとき、お腹の中の美咲にも声をかけるようになった。

どちらの性別でも問題ないように、胎児の時から美咲はミサキと呼ばれていた。

男の子なら゛岬゛、女の子なら゛美咲゛。

そう語る智恵子はとても幸せそうで、智恵子と一緒になってお腹に語りかける蓮に胎動で答えてくれるミサキに、蓮の思い入れもどんどん大きくなっていった。

順調に時が過ぎていたと思われていた妊娠8ヶ月の時、智恵子に異変が起きた。

「蓮くん、タクシーを呼んでくれるかしら?少しお腹が張るから病院に行くわ」

顔をしかめつつも蓮に笑顔を向けながらお腹を押さえる智恵子は、なんだか苦しそうだ。

「おばさん、大丈夫?ミサキがどうかしたの?」

「どうもしないわ。そのことを確かめに行くだけよ」

蓮は言われた通りにタクシーを呼び、慎太郎にも連絡をした。

「蓮くん、すまないが、智恵子おばさんの側にいてくれないか?私も会議が終わり次第に駆けつけるから」

小学生の蓮でもいないよりはましかと思われたのか、いつも堂々としている慎太郎が、心もとない様子で蓮に頼んできた。

大人びた少年だった蓮は、はなからそのつもりだったので、智恵子がもしもの時にと準備をしていた入院セットを持って、智恵子とかかりつけの産婦人科に向かった。

「切迫早産ですね。子宮収縮の頻度が増していますね。幸い子宮口は開いていませんから、内服で様子を見ましょう。重いものなどは持たずに、できるだけ自宅で安静をしてください。内服でおさまらないようなら入院です。今はまだ30週ですから、後、7週間は張り止めを内服しなければならないです」

小学生の蓮に心配させたくなかったのだろう。

張り止めの内服開始と自宅安静を言い渡された智恵子は、医師の話を聞いても笑顔で頷いていた。

「お家に帰れて良かったわ。ミサキも無事だったしまずはひと安心。蓮くんも不安だったでしょう?一緒に病院に行ってくれてありがとうね」

帰宅した智恵子は、その時も笑顔を見せていたので、蓮はホッとしていた。


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