ライアーピース2



学校を出て家とは反対方向に歩いた。


初日だけ遠く思えたけど、
実は学校からもそんなに離れていない場所にある。


その建物に着くと、別な職員らしき女が外に出ていた。


若いな。俺と同じくらいか?


俺がまじまじとその女を見つめていると、
女は俺に気付いて首を傾げた。


そしてすぐにああ!と言って顔を輝かせた。


「中にどうぞ。待ってたわ」


「なっ、別にてめぇに会いに来たわけじゃ……」


「まぁ。あんた本当に口が悪いのね」


「あ?てめぇ喧嘩売ってんのか?」


栗色の長い髪をハーフアップに結んでいるこの女は、
くりくりした大きな瞳で俺を眺めた。


口元に浮かぶホクロに妙に視線を奪われる。


女はジャージを着ていて、裾を腕まで捲り上げていた。


「あんた、楓くんでしょう?」


「だったらなんだよ」


「よし、楓。私についておいで」


女はニコニコ笑うと、俺の手を引いた。
その手を振り払って睨みつける。


なんで、この女……。


「なんで呼び捨てなんだよ」


「だって、あんたは私の弟みたいなものだしね」


「はぁ?弟?」


なんで弟?同じくらいだろ。
そこでなんで俺の方が弟になるんだよ。


ていうか、弟になんかなる気はねぇし、
姉だとも思わねぇ。
どういう意味でそんなこと言うんだ。


「いずれ分かるわ」


女はそう言ってもう一度俺の手を引いた。
今度はそれを振り払う気力もなく、
呆けたまま手を引かれ歩いた。



施設の中に入ると、この間と同じで
独特な匂いが充満していた。


相変わらず爺さん婆さんが多い。


車椅子を使っている人や
杖をついてよろよろと歩いている人もいれば、
普通の人のようにぴんぴんしている人もいる。


みんなそれぞれここで生活しているんだ。


ここにいる人たちには、家族はいねぇのか?



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